ちゃなのゲームブック

ゲームブック作家「ちゃな」のブログです。Amazonキンドルで「ネイキッドウォリアー」等販売中!

「魔術師の宝冠」チャート解析 その2

それでは「魔術師の宝冠」フローチャートを細かく見ていきましょう。

 

物語は主人公と吟遊詩人ダーリスがマンティコアの針を採取しようとしている場面から始まります。

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ダーリスの作戦通りに動けば、針を入手できるチャンスがあります。ただし問題は、ここで針を入手してもストーリー上まったく役に立ちません。

逆に「魔法の矢」はここで使ってしまっても問題ありません。ただし、判定に成功するとマンティコアを殺してしまい、針を採取できなくなります。(マンティコアってマジックミサイル数発で落ちるほど弱かったかしら……?)

 

森に帰ると、前作での宿敵アルノがセイブンの聖騎士団を掌握したというニュースが飛び込んできます。

ブーコッドの錫杖を用いてアルノに対峙するかどうか、主人公は悩みます。錫杖を使えばアルノの魔法を無力化できるかもしれません。ただ、錫杖にかけられた防護の魔法は尽きかけていて、万一アルノに錫杖が渡ると最悪の結果になるおそれがあるのです。

というか、アルノがこんな宿敵になるなんて予想外でした。前作では、そこそこ腕は立つものの、ベルドンに気に入られて自分の実力をひけらかすだけの、典型的な小物に見えたんですけど。。イメージは「ハリー・ポッター」シリーズのドラコ・マルフォイですね。

ここで前作の師で会ったゼインがなぜか逆上して錫杖に触れてしまい、瀕死になってしまいます。ちょっと笑えない展開です。。。

主人公は旅に錫杖を持っていくか否かを決断することになります。重要な選択のように見えますが、どちらを選んでも、さほど大きな影響はありません。

 

パラグラフ121で、セイブンに向かうかシーゲート島に向かうかの選択があります。ここでシーゲート島を選ぶと、チャート上は一気に終盤に進みますが、結局詰むことになります。この序盤でのトラップはちょっと厳しいですね。

 

セイブンに向かう場合、道は三通りあります。街道を通るか、「黄色の沼」を通るか、それとも漁船で港に向かうかです。

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ここで「黄色の沼」は主人公の父である偉大な魔術師ランドールでさえも避けていたという警告が再三出ます。

しかし、正解は「黄色の沼」ルートです。「黄色い沼」に住むマリードから悪魔パズゼウスもしくは「魔術師の宝冠」についての情報を聞いておかないと、最後に詰むことになります。

 

船で港に向かった場合、海兵に襲われます。

「稲妻の一撃」や「火球爆発」で強引に突破するのが正解です。「眠り」や「炎の手」等の弱い魔術では勝てません。

調子によって大魔法である「他者変身」を使うと、とんでもないことになります。従者のラファエルをロック鳥に変身させる選択では、術が強すぎるとかえってコントロールが効かなくなったり、勝手にシーゲート島まで飛ばされてしまったりします。

 

街道や海ルートで進んでも、途中で「黄色の沼」に入る分岐があります。ここで沼に入らないと街道の騎士と対決することになります。色々な魔法を使うチャンスがありますが、既にバッドエンドが確定しています。

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沼に入った際に大魔法を使う機会があります。マンティコアの針を入手していれば、「魔力付与」を試すことができますが、結局失敗します。「他者変身」も使わない方が身のためです。「異界接触」に成功すればヒントが得られますが、大した情報ではなく、失敗すると即死します。

 

沼地の中で襲ってくるマリードの巨大な手に対して、毒の投げ矢を使ってはいけません。下手な魔法も命取りです。杖で殴りかかるか、弱い魔法で様子を見てみてください。

すると、マリードからアルノの力の源である悪魔パズゼウス、もしくは「魔術師の宝冠」についての情報を得ることができます(紫のパラグラフ56または128)。ここを通らないとエンディングにはたどり着けません。

 

パラグラフ100でセイブンの大聖堂の裏まで来ます。

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ここでは敵陣営で唯一の味方と言える聖騎士ガーンに出会います。友好的に振る舞えば沈着度が上昇します。本作では技術点が上がるチャンスは滅多にありません。

ブーコッドの錫杖を持ってきている場合、彼に預けるかどうかの選択があります。

 

その後、一行はアルノを討ちに大聖堂に侵入します。

しかしここでは結局パズズに勝てないので、実は侵入に失敗してしまった方が手っ取り早いです。パズズに錫杖は効かず、攻撃魔法を撃とうとするとアルノの「忘却」に潰されます。逃げる時にけちって「魔法の錠」を温存すると、やはり捕まって殺されます。

 

いよいよ終盤です。

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パラグラフ217では、大聖堂を脱出してガーンと合流する手前で敵の聖騎士に遭遇します。ここでは錫杖を持っていた方が有利です。

 

ガーンと合流した一行は、パズズを倒すための知恵を借りにシーゲート島のアカデミーを目指します。ここで彼に錫杖を預けていた場合は、取り戻すかどうかを選べます。しかし今度は錫杖を回収しない方が若干有利になります。

 

パラグラフ106では、パズゼウスか宝冠の話を聞いていたかどうかで強制分岐します。セイブンを経由せずシーゲート島に来た場合は、どこから上陸するかで同じ選択肢に分岐するので、このアルゴリズムはちょっと不思議ですね。

 

チャートはこれが最後です。

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「魔術師の宝冠」について知っていた場合、島の南から侵入することになります。そこで聖騎士を不意打ちしようとしている変な生き物こそ、ゼインの転生した姿なのです!あとは、みんなでエストラの元に赴き、父から託されたという「魔術師の宝冠」をゲットしてエンディングです。

しかし、セイブンを経由せずここに来た場合は、聖騎士と会話が成立せずに殺されてしまいます。

 

一方、デルマー経由でアカデミーを目指す場合、ノール達をやり過ごす必要があります。ここで沈着度の判定に失敗すると、錫杖を持っていた場合、魔法探知に引っかかって即死します。

デルマーでは前作で主人公の母を弔ってくれたウェンデルから宝冠の話を聞くことができます。ゼインの一族に会いに行くと、先ほどの聖騎士と変わり果てたゼインのシーンに合流して、エンディングに行けます。

初心貫徹でアカデミーを目指してはいけません。アカデミーに侵入すると閉じ込められてしまいます。唯一セットしておいた解錠の呪文を使い切ってしまったという展開です。一晩寝れば魔力が回復しそうなものですが……。

 

パラグラフ106の分岐で、マリードからパズゼウスか宝冠の情報を聞いていない場合も、フリートン経由でアカデミーを目指す道しか選べず、デッドエンドになります。

 

いかがだったでしょうか?

 

どこを経由してきたかで強制分岐するというアルゴリズムは、ちゃな的にはあまり好きではありません。展開に必然性がなく、地名を忘れてしまっている読者もいるでしょうから。パラグラフの圧縮効果もたかがしれています。

また、本作でも「生命点」の存在がまるで意味を成していません。

一方、技術点での成功判定は、失敗すると即死する展開が多い一方で、成否が何の影響もしない場合もあります。

前作に比べると魔法を使う機会は多いです。主人公がセットしている魔法はすべて本文中に登場します(羽毛落下は描写のみで、しかも失敗して即死ですが)。ただ、どこで使うか温存するかを悩む局面はあまりありません。おまけに大魔法がいずれもまったくの役立たずでほぼ地雷と化しています。まあこれは、AD&Dの設定に忠実とも言えますが。。。

 

個々のシーンの描写は相変わらず細かく、アルノがパズズを利用して聖騎士団を支配下に置いてしまう展開などはいかにもAD&Dっぽいですね。主人公の魔法は本作では和名で並んでいますが、「ファイアボール」「ライトニングボルト」「ホールドパーソン」「フライ」「チャームパーソン」などなど、AD&D経験者なら誰しもお世話になったラインナップです。巻末には訳者の清松みゆき氏がAD&Dのシステムと世界観に合わせた詳細な解説を書かれています。

 

が、やはりストーリー展開に比べて、システムとゲーム性がおざなりになってしまっている印象を拭えません。

 

ラストシーンは思わせぶりというか、ぶつ切りです。アルノとの最終決戦は最終巻「魔域の対決」にもつれ込むことになります。

「魔術師の宝冠」チャート解析 その1

どうも、ちゃなです。

「魔法の王国」三部作、第一作の「魔力の杖」は、主人公カー・デリングが父の後を継いで魔術を学び、邪悪な叔父や意地悪な上級生と対決する話でした。

今回は第二作目の「魔術師の宝冠」を紹介します。

 

本作は前巻から5年後の設定になっています。主人公は神秘科学アカデミーで学び、様々な魔術を身につけたいっぱしの魔法使いになっています。前作で父から受け継いだ「ブーコッドの錫杖」も大切に所持しています。

 

そこに、かつての上級生アルノが、セイブンの聖騎士団を支配したという話が舞い込んできます。悪魔パズズを召喚して世界を席巻しようとするアルノの野望を打ち砕くために、主人公は再び立ち上がります。

 

(ちなみに前作のレビューでは、叔父ベルドンから魔法を教わるのが本筋かと書きましたが、本作においてはハーフエルフのゼインから魔法を教わったことになっています。宿敵アルノと出会うのは叔父ベルドンが死んでからのことのようです。)

 

「魔術師の宝冠」では、前作と同様、主人公には生命点と三種類の技術点(判断力、機敏度、沈着度)が与えられます。相変わらず、生命点が減る機会はほぼありませんが、技術点での判定は重要です。「真の道」を通れば、判定の機会は数回しかありませんが、判定に失敗すると即死する展開も多いので、気が抜けません。

 

また主人公は今回ははじめから多くの魔法を覚えています。AD&Dのルールに則り、一度使った魔法は忘れてしまい、まとまった休息を取るまでは復活しません。作中で魔法を覚え直す機会はないので、使用するか温存するかの選択を常に迫られることになります。

とはいえやっぱり総パラグラフ220では、使用機会も限られてきます。ごく特定のルートを通らない限り、魔法が枯渇して困るような展開はありません。

さらに主人公は、解読中である父の大魔法「魔力付加」「異界接触」「他者変身」を所持しているのですが、これがまたくせ者です。

 

では、フローチャートを見てみましょう。

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黄色のパラグラフはデッドエンドです。結構多いですね。

青のパラグラフは魔法を使う場面です。

紫のパラグラフは必須フラグになっており、どちらかを経由しないとエンディングには到達できません。

緑のパラグラフ220が唯一のグッドエンドとなっています。

 

割と綺麗な単方向に見えますね。

ところが、本作では「どこ経由できたか」によって強制分岐する箇所がいくつかあり、プレイアビリティをちょっと下げています。

 

次回に続きます。

ゲームブックにおける主人公の設定

ゲームブックは、基本的に「二人称小説」です。

読者が主人公なので、地の文では、「君は……」という表現が始終出てきます。

作風によっては「君」ではなく「あなた」だったりします。英語ではほぼ100%、"you"ですね。

 

さて、この主人公にどんな人格を与えるか、それとも与えないかに、作品の特徴が大きく現れてきます。

主人公の扱いは、大きく3パターンに分けられます。

 

(1)無色透明の「君」

ファイティングファンタジーシリーズのほとんどは、主人公には何の人格も与えられていません。ストーリーの都合上、冒険者だったり盗賊だったり魔法使いの弟子だったりと、大まかな身分や能力は決まっているものの、容姿や性格、果ては年齢も性別も不明だったりします。

不明ということは、読者が自由に設定できることを意味します。あなたのお気に入りのキャラクターをゲームブックの世界で冒険させることができるのです。

近年復刊されたファイティングファンタジーシリーズでは、巻末に何人かのプレロールドキャラクター(能力値や出自の設定済みのキャラクター)が例示されています。

無色透明の「君」を用いるメリットは、読者の想像を損ねないことと、キャラ人気に左右されず幅広い読者を許容できることです。作者目線では、主人公の設定にはかなり気を遣うので、そこを読者に丸投げできるというのも実はお気楽だったりします。

 

しかし、気をつけなければならないのは、ゲームブックが有限の選択肢を提示している以上、完全に無色透明の「君」などいないということです。

例えば、敵に出会ったときの選択肢が「戦う」「逃げる」「呪文を唱える」「道具を使う」の4種類だったとします。この時点で、この主人公は敵を口車で懐柔したり、降参したふりをしたり、本当に降参して任務を放棄したりするような性格ではないということが規定されているのです。

「ソーサリー!」シリーズの主人公も無色透明な「君」で、実際iPadアプリ版では男女が選べます。しかし本編ではゴブリンをダシにした冗談をいうシーンや、魔法談義に花を咲かせるシーンがあり、コミュ能力に長けた人物像が浮かび上がってきます。

 

(2)想定される人格を有する「君」

主人公に名前こそ与えられていないものの、性別や容姿、性格がある程度決まっている作品もあります。

「悪夢のマンダラ郷」では、失恋したばかりの青年が主人公として想定されています。腰巻き一つの魔女ランダに誘惑されるシーンから察するに、そこそこイケメンなのではないでしょうか。

悪夢のマンダラ郷 悪夢シリーズ (幻想迷宮ゲームブック)

悪夢のマンダラ郷 悪夢シリーズ (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

拙作「ネイキッドウォリアー」では、主人公は「名もなき女戦士」とされています。私自身、主人公の裏設定などは一切作っていません。しかし、全財産を投げ打って裸レースに出るわけですから、ギャンブル精神とさばけた性格の持ち主であることは確かでしょう。

ネイキッドウォリアー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドウォリアー (ちゃなのゲームブック)

 

 

こういった主人公の設定は、序盤で読者に明示される必要があります。さもないと読者は混乱し、「こんなの俺のXXじゃないー!」となります。自分が感情移入している主人公が行いそうな行動が選択肢に出てこないというのは、ゲームブックをプレイするうえで最もストレスフルな瞬間です。

 

(3)主人公が設定済み

はじめから主人公に名前と設定が与えられているゲームブックもあります。日本の作家の作品はこのパターンの方が多いかも知れません。

ドルアーガの塔」三部作の主人公は言うまでもなく王国の騎士ギルガメスです。「サイキックJK麻美 -灯油通り魔事件!」なんかは、帯に「主人公が「あなた」じゃない!」とまで書かれていて、主人公を二人から選ぶことができます。

 

この手の作品の場合、主人公のキャラがいかに魅力的かがとても重要です。同時に、主人公を定めた時点である程度想定読者を絞り込むことになります。

メリットとしては、作中に主人公の台詞を入れやすいことが挙げられます。作中人物同士の友情や論争を描くにのに、主人公が何も喋らないというのはやはり不自然です。しかし無色透明の「君」の場合、主人公に安易に喋らせると、読者の脳内世界が崩壊しかねません。特に日本語では、敬語や女性口調などで語尾変化が多様なので、”Yes"ひとつを喋らせるのも一苦労なのです。

 

ファイティングファンタジーの影響も大きいと思いますが、海外作品では無色透明の「君」が一般的です。対して、和製作品では主人公のキャラ設定にこだわった作品が人気を博する傾向があるように思います。日本ではドルアーガも含めてファミコン作品のゲームブック化が隆盛したという事情もあるでしょう。

 

ただ、この傾向はコンピュータRPGでも同じで、海外で人気の「The Elder Scroll」シリーズや「Bulder's Gate」シリーズでは主人公の種族も性別も自由に設定することできます。こうした作風のゲームは和製コンピュータRPGではあまり見当たりません。主人公を遊び手が自律的にキャラ付けするのを好む英米と、癖のある主人公になりきって遊ぶのが好きな日本、という傾向がおぼろげながら見て取れます。

 

皆さんは、無色透明の「君」を自分好みに脳内変換するのと、作者が精魂込めて作ったキャラを味わうのと、どちらがお好みですか?

 

「魔力の杖」チャート解析 その1

どうも、ちゃなです。

モーリス・サイモン氏の「魔法の王国」三部作、買っちゃいました。

以前2巻まで買ったものの完結編を読まないまま捨ててしまったので、ずっと心残りだったんですよねー。

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本作を一言で説明すると、AD&Dのシステムと世界観に準じた、大魔術師の息子カー・デリングの成長と冒険の物語です。

第1巻「魔力の杖」では、主人公はまだ少年で、本編で初めて魔術を習います。そして父が創設した神秘科学アカデミー内に隠された「ブーコッドの錫杖」を手に入れることになります。

第2巻「魔術師の宝冠」、第3巻「魔域の対決」では成長した主人公が大いなる悪と戦うことになるのですが、実はまだ攻略未了なので、またの機会に。

魔法の王国〈1〉魔力の杖 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

魔法の王国〈1〉魔力の杖 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

 

 

「魔力の杖」の魅力は、なんと言っても主人公が一つ一つ魔法を習得していく過程にあります。

例えば、「眠り」の呪文をかけるためには、相手に砂をかけて「しーっ!」と言わねばなりません。かけられた側は自分に客観的になることで術を回避することができます。

「魔法解読」を習得するためには、一人ずつ異なるコマンドワードを探り当てなければならないのですが、その探し方のアプローチがまた、成功判定の成否によって変わってきます。

このように、多くのファンタジーゲームでは省略されがちな魔法取得の描写がとてもリアルで、まるで読者自身が魔術の勉強をしているような気持ちにさせてくれるのです。

ハリー・ポッターよりも本作の方が遙かに先ですからね!

 

本作はそういった文学的な描写に力を割いていて、パラグラフ数に比べてとても文章量が多いです。

危険な町並みや荘厳なアカデミー、一癖あるキャラクター達も生き生きと描かれています。

 

その一方で、本作はゲームとしてみると、かなりこなれていない部分が目立ちます。

 

まず、主人公は冒険に先立ち、生命点と三種類の技術点を決めるのですが、このうち生命点はまったく意味を成していません。

生命点が減る箇所はいくつかありますが、全部引き当てても主人公が死ぬことはないのです。

おそらくシステムをシリーズで共通にしたためでしょう。しかし、魔術師である主人公は白兵戦など行いませんし、戦闘ルールも存在しないのです。「ソーサリー!」のように、魔法を使ううちにどんどん体力を削られるということもありません。

 

三種類の技術点は、「判断力」「機敏度」「沈着度」に計5点を振り分ける形式になっています。これらはたびたび成功判定に用いられるので、初期設定は非常に重要です。

ルール説明でも強調されているように、判断力が主人公にとって最も重要です。迷わず判断力に3点振っておくのが正解です。

この技術点の扱いにもちょっと問題があります。技術点は展開によって大きく上下するのですが、判定に失敗すると技術点を減らされることが多いのです。ただでさえ低い技術点がさらに減らされると、次の判定は一層難しくなってしまいます。特に判断力が減ってしまうパラグラフを踏むと、冒険はかなり厳しくなります。

 

そして、本作の最大の欠点は、実は魔法です。

本作では主人公は全部で16種類もの魔法を習得するチャンスがあります。もっとも、すべてを習得することはできません。どんなルートをたどっても覚えられる魔法は最大3種類です。

しかも、せっかく覚えた魔法を使う機会が、ほぼまったくないのです。

 

種明かししてしまうと、16種類の魔法の中で使用する機会があるのは、「皆殺し」「炎の手」「羽毛落下」「壁登り」「明かり」「眠り」の6種類だけです。他の10種類は一度も選択肢に出てきません。

しかもこのうち、有効活用したと言えるのは「羽毛落下」「壁登り」「眠り」だけなのです。これらはクリアに必須ではありませんが、用いるとデッドエンドを回避しやすくなります。

「皆殺し」と「炎の手」は、選ぶと即死します。「明かり」は使っても使わなくても展開は変わりません。

 

たった244パラグラフの作品で、しかも魔法を習得する過程に重きを置いた構成では、魔法を使う機会を増やすにも限界があるでしょう。しかし、せっかく苦労して(時には死を覚悟して)習得した魔法がほとんど使えないというのは、主人公にしても読者にしても、あまりにも口惜しいものがあります。

 

……少々手厳しい解説になりましたが、気を取り直してチャートを見てみましょう。

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黄色いパラグラフはデッドエンド、青いパラグラフは魔法を習得するシーン、そして赤いパラグラフが、魔法を使う場面です。

……ね?魔法の習得に比べて活用するシーンがあまりにも少ないんですよ。

 

さて、本作ではパラグラフ構成にひとつ大きな特徴があります。途中でルートが大きく2つに分かれているのが見えるでしょうか?

実は、パラグラフ159からの選択で物語の展開が大きく2通りに分かれるのです。ひとつは、ハーフエルフのゼインに師事して魔術を学ぶ展開、もう一つは、主人公の叔父ベルドンの治めるアカデミーに入学するパターンです。

 

つまり本作は、物語の最大のポイントである「魔法の習得」というプロセスを2パターン用意しているのです。このようにメインプロットが複数に分かれるゲームブック作品は多くありません。

ちなみにネタバレになりますが、ベルドンは主人公の父の敵です。アカデミーに入学するということは、疑惑の渦中にある叔父の本拠地で勉強することになり、主人公にとっては様々な危険を背負い込むことになります。その展開を反映して、ベルドンルートの方が攻略の難易度は高くなっています。

他方では、アカデミーでの授業や意地悪な初級者長アルノとの確執など、ベルドンルートの方が面白いイベントが目白押しです。アルノは次巻以降でも主人公の宿敵として立ちはだかるのですが、ゼインルートだとアルノに会うこともなくエンディングに到達してしまいます。明らかに、ベルドンルートの方が正規ルートだと言っていいでしょう。ゼインルートはイージーモードとでも言うべきでしょうか?

(追記:……と思ったら、続編「魔術師の宝冠」では、主人公はゼインから魔法を学んだことになっていました。)

 

次回はチャートをより細かく見ていきます。

「魔力の杖」チャート解析 その2

どうも、ちゃなです。

「魔法の王国」三部作の一巻目「魔力の杖」。チャートを細かく見ていきましょう。

 

序盤は小手調べですが、バッドエンドが結構あります。

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主人公の母が死に、カー・デリングは旅立ちを余儀なくされます。叔父ベルドンを頼ってフリートンに向かいます。パラグラフ102で主人公はハーフエルフのゼインと出会います。

 

次のパートはゼインに師事するかベルドンのもとに向かうかの大きな分かれ道です。

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ゼインと親交を深め、パラグラフ159で彼に師事することを選ぶと、ゼインルートに分岐します。ゼインを信用せず、ベルドンに会って話を聞こうとすると、右側のベルドンルートに入ることになります。

ベルドンルートでは必ずアカデミーに入学することになります。入学早々、上級生との小競り合いがあり、技術点を減らされる局面も出てきます。

 

ベルドンルートの続きを見てみましょう。

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ベルドンルートでは選択によって、「いたずら」、「弱い魔術」、「強い魔術」のいずれかのカテゴリーを学ぶことになります。

ばか正直に初級コースを希望すると「いたずら」を二つしか学べず、これらは物語ではまったく役に立ちません。ブーコッドの錫杖についてゼインから聞いたことを正直に話すと「弱い魔術」のコースに分岐します。「羽毛落下」と「壁登り」があるので最も有用性が高いですが、羽毛落下の習得判定に失敗すると即死します。ブーコッドの錫杖のことを黙っている場合、「強い魔術」を学ぶことができ、さらにいきなり父の私室への侵入にチャレンジする機会もあります。ただし、強い魔術はいずれも攻略にほとんど役立ちません。

 

魔術習得のフェーズが終わると、主人公は侵入者を発見します。ヒロインの吟遊詩人ダーリスです。彼女は本来は味方なのですが、「皆殺し」や「炎の手」で挑んだり、判定に失敗したりすると、弁解する間もなく即死します。ここでは「眠り」を使うのが唯一確実な方法です。

ダーリスとともに主人公は父の私室への侵入を試みます。判定に失敗すると壁から落ちて命を落とすことになりますが、「壁登り」や「羽毛落下」があれば、それぞれ判定のチャンスが増えます。なお、パラグラフ28の飛び先は判定成功で179、失敗で10となっていますが、これはエラッタで逆でしょうね。

 

魔術を学ぶ前に父の私室にベルドンとともに侵入しようとするルートもあるのですが、ここにもエラッタがあります。パラグラフ160で部屋を調べてみる選択肢の飛び先は241となっていますが、これはおそらく105の間違いです。うまく侵入して父の巻物を手に入れ、さらに判定に成功してベルドンを欺ければ、物語は一気に終盤に向かいます。

一カ所エラッタがあり、ベルドンの名前が主人公の父になっています。

 

一方こちらはゼインルートです。

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ゼインに自分の不信感を正直に告白した場合、「強い魔術」を教えてもらえます。隠した場合は「弱い魔術」になります。しかし実際に役に立つのは「弱い魔術」の方です。

いずれも3つの魔術の習得を試みるのですが、一つも判定に成功しなかった場合はバッドエンドになります。ベルドンルートに比べると習得失敗時のペナルティが厳しくなく、また「羽毛落下」は判定に失敗しても習得できます。

 

ゼインルート終盤です。 

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ゼインルートではなぜかここに難所があります。ブーコッドの錫杖を取り戻そうとするミッションに怖じ気づいたり、錫杖より父の魔術書を優先しようとしたりすると、ゼインに記憶を消されます。この人、本当に味方なのでしょうか?

 

ゼインルートの場合はダーリスとともにアカデミーに侵入します。ベルドンルートの場合は侵入してきたダーリスと合流します。ここで主人公があっさりダーリスの言うことを信じて寝返ってしまうのが、ちゃな的にはちょっと違和感でした。

 

チャートは次で最後です。

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主人公は父の私室から巻物を手に入れます。展開によっては一冊入手し損ねますが、何の問題もありません。ニセドラゴンのラファエルという頼りになる従者を手に入れます。

 

最後は、錫杖を守る「暗き者」とベルドンの挟み撃ちに遭います。緊迫の一瞬ですが、ゲーム的には既にエンディングが約束されています。

 

いかがだったでしょうか?

チャートだけ見てしまうとあまり面白みがなく、また山場である魔法習得の機会をいくつにも分離させているのは、パラグラフ的に勿体ないように思います。その一方で、おそらく正伝と思われるベルドンルートのほかに、比較的安全に魔術を学べるイージーモードとしてのゼインルートが用意されているというのは、なかなか面白い試みと言えます。

(追記:続編「魔術師の宝冠」によると、ゼインルートの方が正史になっていました。)

 

前回お伝えした通り、本編の妙は描写にありますので、もし機会があれば是非手にとって読んでみてください。主人公と一体となって魔法を次々と学んでいくような気持ちになれること請け合いです。

いま構想中のゲームブック

どうも、ちゃなです。

このエントリーは、個人的な備忘録みたいなものなので、まあそんな感じに読んでください。

 

現在、私は新作ゲームブックの執筆で大わらわです。5月連休前に出したかったのですが、さすがに無理でした。初夏の発刊を目指します。

他にも、アイデアはいくつも温めているんですよね-。

 

「骨太な作品」

タイトルは一応伏せておきますが、私がゲームブックとしていずれなんとかして完成させたいのがこれです。元ネタはテーブルトークRPG用のオリジナルシナリオです。舞台はファンタジー、キャッチフレーズは「世界破滅の危機を2時間で召し上がれ」。マルチPCシステムを実装予定で、主人公は50人!双方向で、1000パラグラフくらいになるかと思います。

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「オカルトもの」

こちらもTRPGから。昔「サウンドノベルツクール」でアドベンチャーゲームとして制作したこともあります。システムは「ナイトメアハンター」、シナリオは「女神転生」に近いです。そのままシナリオとして公刊するかもしれませんが、主人公が固定なので、どちらかというとソロプレイに向いているかな?500パラグラフくらいの単方向になると思います。

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「最後の推理」

推理ものです。出だしとオチだけが決まっています。シングルプロットでガチなテイストです。仕上げるにはもう少し構想力と文章力が必要かな。。。

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「メタもの」

100パラグラフのゲームブック2冊組みで、1冊は主人公が作者で、もう1冊のバグだらけの作品を修正しながらゴールを目指す、なんてのはどうでしょうか?

 

「戦隊もの」

主人公が5人のザッピングものも考えてますよー。問題は私がほとんど戦隊ものを観たことがないということ。勉強しなくちゃ。。。

 

倒叙もの」

ゲームブックって二人称小説ですから、語り手が読者に嘘をつくのはある意味禁じ手ではあります。でも、二重人格とか、記憶喪失とか、意図せずミスリードになってたとか、色々作れそうですよね。既にどなたかが制作されてるかもしれません。「展覧会の絵」がイメージ的には近いかな。一発ネタなので100パラグラフでも良さそうです。

展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル)

展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル)

 

 

「マルチプロット、マルチエンディング」

箱庭的な舞台を作って、自由に遊んでもらうのも良いですね。複数主人公にして、それぞれの思惑が交錯するオムニバス作品も作ってみたいです。分冊にしても良いかも知れません。「サソリ沼の迷路」とか、「ゴーレムナイトと巨人戦争」みたいな雰囲気になるかな?

ゲームブック ゴーレムナイトと巨人戦争 FT書房

ゲームブック ゴーレムナイトと巨人戦争 FT書房

 

 

あと、今の作品を仕上げたら、次はちょっと企画ものっぽい小粒の作品を作ってみたいと思っています。

 

やらなきゃいけない作業に追われているときって、やらなくても良い作業がどんどんはかどりますよねー。

今回は雑記帳でした。ではまた。

「人狼村からの脱出」DVDとゲームブック

どうも、ちゃなです。

今日は、リアル脱出ゲーム「人狼村からの脱出」イベントに参加してきました。

実は、リアル脱出ゲームへの参加は初めてです(出不精なので……)

 

人狼村からの脱出」は、いわゆる人狼ゲームを元ネタにしたリアル脱出ゲームです。初回公演はかれこれ10年くらい前になると思いますが、今でもリバイバル公演が行われている人気作品です。

本作は、DVD版が発売されています。今回のイベントはこのDVDを使って行われました。

 

会場では、ゲームを制作したスクラップの方がファシリテーターを務められ、ゲームを盛り上げてくださいました。

www.scrapmagazine.com

 

プレイヤーは数人でチームを組んで、様々なナゾトキにチャレンジします。16人の謎めいた村人たちの中から、3匹の人狼を探し当てなければなりません。解いた謎に基づくキーワードを集めていくうちに、人狼の正体と脱出の方法がわかる仕掛けになっています。

 

人狼村からの脱出」DVD版の特徴は、このDVDさえ流しておけば、ゲームマスター無しで楽しめることです。ネタバレしていないお友達同士でまる1時間、がっつりチャレンジすることができます。

また、DVD版の謎は、回答編にすべての正解が収録されています。これは、この手の作品にしてはちょっと珍しい仕様といえます。おそらく、本作をイベントで使用する時などで主催者がトラブルに対応できるようにするための心配りでしょう。

 

ナゾトキの難易度はそれほどでもないのですが、とにかく時間制限がきついです。DVDの上映中に次々とヒントが出てくるので、謎を解く係、ヒントを捕まえる係、人狼をあぶり出す係、そして連絡調整やヘルパー役と、役割分担がとても重要です。

 

幸い、私のチームのメンバーは皆さん強者揃いで、特に相談もせず片っ端から謎を解いていき、ついに無事脱出することができました!

私は、ひとつふたつのナゾトキを手伝ったくらいで、ほとんど何もしなかったです。。。

詳しくは書けませんが、最終問題から脱出に至るまでの過程は非常に芸術的でした!

 

ところで、「人狼村からの脱出」には、ゲームブック版というものもあります。

人狼村からの脱出 狼を見つけないと、殺される (脱出ゲームブック)

人狼村からの脱出 狼を見つけないと、殺される (脱出ゲームブック)

 

こちらは、ゲームブックの体裁を取っていますが、中には様々な謎が詰まっていて、プレーヤーは幾多の謎を解きながら人狼村の秘密に迫っていくという体裁になっています。

DVD版とはストーリーラインこそ同じですが、まったく別物ですので、どちらも新鮮な気持ちでプレイすることができます。

 

それではどちらが面白いかというと、完成度という点ではゲームブック版の方が遙かに上です。

謎の種類も豊富ですし、ストーリーも凝っていて、次々と村人が殺されていく緊迫感にぞくぞくさせられます。ゲームブックですので、選択を誤ってデッドエンドに至ることもあります。そして、終盤からラストにかけてのナゾトキの美しさは、スクラップさんの真骨頂と言えるものです。

DVD版の方は時間制限とパーティプレイという要素をわいわいがやがや楽しむのに対し、ゲームブック版は一人でじっくり時間をかけて攻略するためのものです。

私は3日ほどでエンディングに辿り着きました。正味15時間くらいでしょうか?公式サイトのヒントにかなり頼りましたけど。。。