ちゃなのゲームブック

ゲームブック作家「ちゃな」のブログです。Amazonキンドルで「デレクの選んだ魔法」等販売中!

フラグワードシステムについて

どうも、ちゃなです。

「フラグワードシステム」この言葉を聞いたことがある方、有り難うございます!だって、私が作った用語ですから。

(以下、「デレクの選んだ魔法」ほか、拙著の内容がちょこっとだけ出てきます)

 

フラグワードシステムは、「ネイキッドサバイバー」で初登場し、「デレクの選んだ魔法」でも採用した、フラグ管理のためのシステムです。

ネイキッドサバイバーの裏話エントリでも簡単にご説明しましたが、これは一言で言うと、「ドラクエ復活の呪文に言葉としての意味を持たせたもの」です。

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

 

 

そもそもフラグとは、「強制的な分岐のトリガー」を意味します。

ゲームブックでは、パラグラフ分岐が複雑になると、同じパラグラフを複数の展開で使い回したり、主人公の過去に取った行動が未来に影響を及ぼしたりするようになります。そのため、同じパラグラフであっても、それまでの経緯によって次の飛び先を強制的に分岐させる必要が出てきます。

フラグを立てるためによく使われるのが、アイテム(所持品)です。

拙著「ネイキッドチェイサー」では、何色の指輪を嵌めているかが、同行者の有無を示すフラグになっていました。

ネイキッドチェイサー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドチェイサー (ちゃなのゲームブック)

 

 

アイテム以外でフラグ管理を行おうとすると、もう少し抽象的な仕組みが必要になってきます。

キーナンバーとか、チェックリストを読者に管理してもらう方法がスタンダードです。

1000パラグラフ双方向の大作「ネバーランドのリンゴ」では、キーナンバーが32個も用意されています。

ネバーランドのリンゴ (スーパーアドベンチャーゲーム)

ネバーランドのリンゴ (スーパーアドベンチャーゲーム)

 

でも、32個の数字を憶えていられる人はいませんよね。キーナンバー方式は、紙と鉛筆、もしくはアプリの機能がないと成立しないシステムです。 

 

それに対して、フラグワードシステムは、数多くのフラグを一つの意味のある単語で管理してしまおうという仕組みです。

 

フラグワードシステムの利点は下記の通りです。

 

1.一つの言葉で、物語のすべてを管理できる

「デレクの選んだ魔法」では、一つのフラグワードに実にたくさんの意味を持たせています。

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

例えばアカデミー1年生の時期には、「学生としての知力レベル」「火蜥蜴を持っているか否か」「シグレ草を持っているか否か」「ナイトシェードを持っているか否か」といった情報がフラグワードに収納されています。

これが社会人になると今度は、「疲労度」「悪意度」「貴族との関係」「陰謀を阻止したか否か」といった情報がフラグワードに書き込まれています。

ちなみに最終決戦では、3つのパラメータを用いて戦局を管理しています。

 

2.選択した行動の影響を読者に隠すことができる

「デレクの選んだ魔法」では、ある行動を取ると「疲労度」が上がっていきます。そして、一定数を超えると、主人公は病に倒れてしまうのです。

このような展開を、通常のゲームブックではヒットポイントなどで管理しています。また、キーナンバーなどを用いる作品でも、どの値を動かすかを見れば、行動の結果がどのようなボーナスまたはペナルティになるのか、読者は何となく予想がついてしまいます。

フラグワードシステムは、各種ポイント管理やキーナンバーに比べて、パラメータ変化の意味を読者に感づかれにくいという特徴があります。本作ではこれをうまく活用することで、何が主人公にとって最善の行動かが選択の直後にはわからないようになっているのです。

 

3.フラグワード自体に意味があることで、憶えやすい

読んで字のごとくですね。ただ情報を暗号化するだけなら、五十音2文字で2000種類以上の状況を管理できますが、「フラグワードを「らに」から「しきつ」に変更せよ」とか言われてもなかなか憶えられません。「もえさかる」から「もえつきる」とかの方が、憶えやすいですよね。

 

4.フラグワード自体の意味を使ったギミックも可能

これはまだ実験段階ですが、「デレクの選んだ魔法」では、フラグワードの言葉の示す情報のみならず、その言葉自体に意味を持たせている箇所が何カ所かあります。いずれも本作のテーマとも言うべき言葉です。

ドラクエ復活の呪文でも、偶然にせよ意図的にせよ意味の通る文章になっている例がありましたね。

 

こんなふうに幾つかメリットのあるフラグワードですが、一方欠点はと言うと。。。

 

1.収納できる情報量が少ない

一つのフラグワードに込められる情報には限りがあります。

平仮名の羅列ではなく、意味のある文字列に絞るとなると、例えば「ら行」で始まるフラグワードはほとんど作れません。

私は、「デレクの選んだ魔法」の執筆にあたり、すべての五十音の組み合わせを試しました。

その結果、一文字目16パターン、二文字目8パターン、文字数5パターン、総計640種類のフラグワード(+特殊なもの)を作成することになりました。

640種類もあれば十分だろうと思うかも知れませんが、そうでもありません。

原案の段階では、デレクが習得した魔術の種類もフラグワードに組み込むつもりでした。しかし、全12種類の魔術の習得過程がそれぞれ独立している(「ある魔術を覚えてからでないと次の魔術が覚えられない」というようなことがない)場合、組み合わせは2の12乗で4096通りにもなります。全然足りませんよね。そこで、習得した魔術の種類は別個に読者の皆さんに把握しておいていただくことにしました。

本作では他に物語の進行度を示すフラグが全編通じて必要になります。これを文字数に当てはめました。実際にプレイしていただくと、物語の節目節目でフラグワードの文字数が2文字から3文字、4文字と上がっていくのが体験できるかと思います。

残りの変数は128、つまり2の7乗ですから、単純な「あり/なし」のフラグなら全部で7つまで仕込めることになります。4段階に変化するフラグだと3つくらいしか管理できません。

当初は、「ダミアンの好感度」とかも考えていたのですが、涙を飲んで切りました。

 

2.記載が面倒くさい

そんなわけで、後に影響する行動をするたびにフラグワードは書き換わるわけですが、その都度640種類のフラグワードを並べていては、作者も読者も疲れ果ててしまいます。本としても単語の羅列が延々と続くことになり、格好悪いことこのうえありません。

本作では、展開上ありえないフラグワードはいちいち記載しないようにして、かなり容量を削っています。それでもなお、要所ではフラグワードの変更規則だけが何ページも続く場所ができてしまいました。

フラグワードを並べ立てずに済むように、あえて物語の展開を単純化した箇所もあります。でもそれって本末転倒ですよね。

 

3.やっぱり憶えていられない

意味のある言葉とはいえ、単語を一つずっと頭の中に置いておくというのは、結構ワーキングメモリを消費するものです。夢中で読み進めるうちに現在のフラグワードを忘れてしまった方もいたのではないでしょうか。実は私もテストプレイ時にしばしば忘れてしまいました。

そうすると、やっぱりメモを取るなりキンドルでハイライトしておくなりの対処が必要になってきます。

 

4.推敲が難しい

フラグワードは、読者からは仕組みが見えづらいシステムです。それは作者にとっても同じです。

「ネイキッドサバイバー」ではフラグワードは全部で100種類程度で、全編通じてその意味する内容は一緒でした。しかし「デレクの選んだ魔法」は、数自体が多いうえに、同じフラグワードでもパラグラフによってその示唆する情報が異なります。このため、推敲がものすごく大変になりました。

例えば「ここは1ダメージ受けるところだったけど、やっぱり2ダメージにするか」と思っても、そう記述を書き換えるのではなくて、フラグワードがどう変わるかを全部検証して、さらに展開上あり得ないフラグワードを除外するという作業が必要になるのです。おまけに一つのパラグラフを直すとその後にも影響が及びます。

 

5.コンティニューがやりづらい

ゲームブックをプレイしていて途中で死んでしまった場合、律儀に初めからやり直すでしょうか?少しだけ戻って別の選択肢を試したくなること、ありますよね。

通常のゲームブックの場合、直近に手に入れたアイテムを消したり、失ったヒットポイントを回復させたりするだけで良いのですが、フラグワードシステムではそうはいきません。場面場面に応じて、適切なフラグワードが異なるので、フラグワードを変更したパラグラフと変更内容を逐一記録しておかないと、物語を正確に巻き戻すことができないのです。

これがヒットポイントくらいなら、多少間違っていても何となく進めることができますが、フラグワードは物語の展開全体を記述しているので、間違ったまま進めると、例えば秋が終わったのにまた秋が始まったりといった、展開の齟齬を来たすリスクがあります。

 

「デレクの選んだ魔法」を執筆中にこのことに気付いた私は、「コンティニューシステム」の導入を考えました。コンティニューシステムは、「ネバーランドのリンゴ」でも採用されていますが、デッドエンドのパラグラフに、リスタート地点を示しておいてあげることを言います。

例えば、「ゲームオーバー。コンティニューする場合は、フラグワードをXXXXに変えてYYYへ飛べ。」などと書いておけばいいのです。

是非作ってみたかったのですが、本作は構成が複雑で、何処まで戻れば良いか、その際にフラグワードをどう変えればよいかがとてもわかりづらかったため、断念しました。

 

6.作るのが面倒くさい

一番の問題はこれですね。「デレクの選んだ魔法」でフラグワードマトリクスを作成して、選択肢に導入するだけで、1ヵ月近くかかってしまいました。前半は辞書とにらめっこ、後半はフローチャートを上から下まで辿ることの繰り返しです。普通にキーナンバーなどで管理していれば、せいぜい数日でできたはずです。

 

7.翻訳と相性が悪い

説明不要ですね。フラグワードシステムは日本語の妙を活用した仕組みなので、翻訳不可能です。もしも英語でフラグワードシステムを構築したら、どんな感じになるんでしょうか?

 

そんなわけで、「デレクの選んだ魔法」ではフラグワードシステムを全面的に採用しましたが、ちゃな的にはそれなりにやり尽くしたかなという感じです。

なるべく筆記具なしで楽しめるゲームブックというコンセプトにはこだわっていきたいので、また新しい方法を考えてみたいと思います。

フラグワードシステム自体も、特定の性質を持つゲームブックと相性が良かったりするので、いずれ進化した形でお見せできるかもしれません。

 

今回はフラグワードについてでした。

ではまた。

「デレクの選んだ魔法」トロフィー集

どうも、ちゃなです。

新作ゲームブック「デレクの選んだ魔法」、お楽しみいただけていますでしょうか?

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

 本作は600パラグラフ単方向のマルチエンディングです。もちろん、読者によって主人公の歩む道筋が異なってきます。

既に紹介していますが、パラグラフ600にあるノーマルエンドの他に、真エンドと超エンド、おまけの裏エンドが用意されています。ほかにバッドエンドが無数にありますが、そのうち幾つかにたどり着くのは、普通のエンディングを見るより難しかったりします。

 

ところで、最近のコンピュータゲームでは、プレイヤーの達成度に応じて「トロフィー」が認定される仕様が多いですよね。例えば「敵を100人倒した」とか、「お姫様を救出した」とか。なかには、一回エンディングに到達したくらいでは全然達成できないような、やりこみ専用のトロフィーもあったりします。

実はこのトロフィーシステム、ゲームブックでも既に導入されているんですよ!

例えば、こちらをご覧ください。

見捨てられた財宝

見捨てられた財宝

 

本作は100パラグラフと小柄ながら、エンディングのパターンが様々あり、それによって「冒険者ランク」がつけられるようになっています。

 

こちらもそうですね。 

ゲームブック 剣竜亭とカラクリ迷宮 FT書房

ゲームブック 剣竜亭とカラクリ迷宮 FT書房

 

巻末に「達成度」というランク分けがあって、単にエンディングを見ただけでは迷宮を制覇したとは言えないようになっています。

 

そんなわけで、「デレクの選んだ魔法」にも、トロフィーを作ってみました。

是非100%達成目指して、楽しんでいただければと思います。

とはいえ、本作ではいわゆるパラメータが存在しないので、各項目は到達したパラグラフだけの簡単なものになっています。

(性質上、若干のネタバレがあります。)

 

難易度 タイトル パラグラフ 説明
冒険のはじまり 1 あなたはデレク、魔術師だ。
王都に潜む影 42 第4章に到達した。
教授たちの思惑 43 第3章に到達した。
漂泊の旅人 95 自由はいいものです。
決戦 121 最終章に到達した。
痴話げんか? 146 言い争っている二人を見た。
伯父の誘い 161 第1章を開始した。
王立魔術アカデミー 186 第2章に到達した。
飲んだくれ 219 ある意味、幸せな人生かも。
魔術師は野望を明かす 441 第5章に到達した。
★★ ネイキッドガール 54 不可抗力なのよ、これは……
★★ 魔術師対剣豪 64 世紀の対決の結果は……
★★ 昼下がりの情事 74 品のないお方ね。
★★ 一攫千金 123 財宝を手に入れた。
★★ 交渉成立 126 強力なコネクションを手に入れた。
★★ 絶望の使徒 130 その瞳に映るのは次世代の神。
★★ 病魔 172 ウィズバードン症候群に罹った。
★★ ブラック企業 265 為政局雑務部に就職した。
★★ 犯人はお前だ! 355 事件を解明した。
★★ ジョギングデート 420 メグと二人で公園まで走った。
★★★ 上司を操る方法 145 心理学より簡単です……?
★★★ 首席! 193 学年トップの成績を取った。
★★★ 心攻 316 宿敵を打ちのめした。
★★★ 公僕として 406 官僚として大成した。
★★★ 愛する人に抱かれて 446 これもまた幸せな終焉か……
★★★ カウンターフォース 482 宿敵の術を打ち破った。
★★★ 悲しい決断 499 愛を取るか、仕事を取るか。
★★★ 将軍の素顔 511 パトリシアの生い立ちを聞いた。
★★★ 開花した商才 516 異世界転生ものではありません。
★★★ 虚しい決着 546 宿敵をボコボコにした。
★★★ 100年の荒野 570 手を出すべきではない力に手を出した。
★★★ 黒幕発覚 590 黒幕の正体を突き止めた。
★★★ エンディング 600 クリアおめでとう!
★★★★ 旅の終わり 6 これぞ真の大団円。
★★★★ 狂気の魔術師 28 ルール破りがお好きなようで……
★★★★ セカンド・チャンス 333 ???に到達した。
★★★★ ウォーロック 428 禁呪を使いこなし、禁呪に染まった。
★★★★ この日のために 574 最も大切な術を最も大切な相手に使った。
★★★★★ 法則の間 ??? そこは世界の中心。
★★★★★ 完全な世界 ??? 隠しエンディングの法則……

 

いかがでしょうか?なんとなくそれっぽく感じていただければ幸いです。

「デレクの選んだ魔法」最強王座決定戦!

どうも、ちゃなです。

 

新作ゲームブック「デレクの選んだ魔法」では、いろんな人が出てきます。主人公デレクの心強い味方もいれば、ライバルや不倶戴天の敵も登場します。

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

本作には明示的なパラメータが存在しませんので、誰がどのくらい強いのかは想像するしかありません。戦って一番強いのはいったい誰でしょうか?

(軽いネタバレを含みます。)

 

戦士部門

 

第3位 カーン

治安局の部長を務めるカーンは、典型的な体育会系の人物です。制圧部隊を率いていることから、自らも相当の腕っ節を誇るのではないでしょうか。とはいえ、山賊ハロルドを取り押さえ損なったというエピソードがあるので、その腕力はあくまでも人間レベルにとどまるものでしょうけれど。。。

 

第2位 アストリア

本作で実際に登場した悪魔の中では、戦いの権化ともいえるこの悪魔が最強ではないでしょうか。剣と盾を装備した姿で現れて大暴れします。普通の戦い方では到底敵う相手ではありません。ただ、知能や感覚は並の人間と大して変わらないので、そこが付け目かもしれませんね。

 

第1位 オバール・ブレイガス伯爵

やはり最強はこの人でしょう。光速流の使い手で、王都での武芸大会でも優勝経験があり、しかも精神力が強くて魔術にもかからないというスーパーマンです。「ネイキッドチェイサー」では年老いた彼が主人公の女戦士に立ちはだかりますが、その戦いでも「全盛期のブレイガスはどれだけ強かったのだろう」と思わせる描写があります。悪魔なんか余裕で斬り殺してしまいそうですよね。

 

魔術師部門

 

第3位 カストロ

魔術師の中でもアカデミーの教授陣は現役の最強術者ということで、甲乙付けがたい実力を持っています。しかし、汎用性という点では召喚術の大家であるカストロ先生が一歩前に出るでしょう。片っ端から悪魔を呼んで使役すれば、相手はなすすべもありません。その冷静で隙のない性格も戦いで真価を発揮することでしょう。

 

第2位 ツルニコフ

「一対一なら衰弱の術が最強」説は根強いです。ツルニコフ本人はなかなか独特のキャラクターで、彼が戦う姿はそうそう見られないでしょうが、いざ本気を出したら、その口から漏れる真言の前に死屍累々という情景が浮かび上がります。

 

第1位 サイフリート・アッシュ

アカデミーの学長にして思念の術者。プロフェッサーXばりの超能力で敵の心を操り、魔公案で全ての相手をねじ伏せます。しかも彼は60歳を超えるというのに筋肉ムキムキ。いざとなれば魔術に頼らずその豪腕で相手をくびり殺すことだってできそうです。伊達にくせ者揃いの教授陣のトップにいるわけではありませんね。

(余談ですが、ちゃなは、この「テレパス能力」+「物理的に強い」のコンボこそ最強だと思っています。X-MENシリーズでも最強のミュータントは多分、テレパシーと硬質化の能力を併せ持つ”ホワイトクイーン”エマ・フロストでしょう。)

 

いかがだったでしょうか?

実際には相性やシチュエーションによる違いもありますので、あくまでも一つの思考実験です。ネタバレのためあえて伏せた人物や設定もあります。

公式に誰が最強と決めるつもりもありませんので、皆さんも「この二人が戦ったらどうなるか?」という想像をしてみてくださいね。

ロンドンのアナログゲーム事情

どうも、ちゃなです。

 

私は数年前にちょっとだけロンドンに住んでいたことがあります。英語も苦手で、物価も高く、慣習の違いに苦労することも多かったですが、現地で何度かゲーム会に参加できたのは良い思い出です。

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ロンドンにも、アナログゲーム愛好家は数多くいます。週末になると、その辺のパブを借り切って、コンベンションが開かれるのです。

だいたいのところで、入場は無料。普通に居酒屋として営業しているので、お酒や料理を注文しながら、パートナーを見つけて好きなだけゲームを楽しめます。ゲームは主催者が持ち込んでいたり、プレーヤーが持ち寄ったりと、様々です。50~60人規模のところもあり、お酒飲みながらの人もいるので、割とゆるゆるです。

 

よくプレイされるゲームは、日本でもおなじみの「パンデミック」「ラブレター」「ゴキブリポーカー」など。アメコミものもよく見かけました。

ごきぶりポーカー (Kakerlakenpoker) カードゲーム

ごきぶりポーカー (Kakerlakenpoker) カードゲーム

 

 

「タケノコ」「花火」「キング・オブ・トーキョー」など、日本をテーマにしたゲームも遊ばれています。

花火 (Hanabi) 日本語版 カードゲーム

花火 (Hanabi) 日本語版 カードゲーム

 

 

重ゲーも結構プレイ人口が多いようです。「電力会社」「世界の七不思議」なんかは、大会が開かれるほどです。 

世界の七不思議 (7 Wonders) 日本語版 ボードゲーム

世界の七不思議 (7 Wonders) 日本語版 ボードゲーム

 

 

クニツィア先生も人気で、クニツィア縛りの大会もありました。優勝賞品はサイン色紙。私はその日は「頭脳絶好調」「ロストシティ」「ラー」なんかをプレイしました。

ラー (Ra) 日本語版 ボードゲーム

ラー (Ra) 日本語版 ボードゲーム

 

 

残念ながら日本製のゲームを見ることはありませんでした。。。

 

海外でプレイするとなると、言語依存がもろにのしかかってきます。「ゴキブリポーカー」でさえも、"This is a bat!" "Rat?" "No, bat!"みたいな感じです。

とにかく、ルール説明がなかなか頭に入ってこない!それでも、基本ルールはなんとなくわかるのですが、細則や例外事項についてうまく質問できなくて戸惑うことがしばしばありました。

 

リソースマネジメントの傑作「コンコルディア」は、カードの点数づけがよくわからず、最後まで1枚もカードを買わずに終わってしまいました。それでもビリにはならなかったのが奥深いところですが。

コンコルディア 日本語版

コンコルディア 日本語版

 

 

そして重ゲー中の重ゲー「Archipelago」に至っては、初回プレイではゲーム終了までルールが理解できず。。。

アーキペラゴ(Archiperago)

アーキペラゴ(Archiperago)

 

本作は、探索、交渉、建築、リソースマネジメント、終了条件隠匿等、数多くの要素を組み込んだ大作で、プレイ時間も長編シナリオでは4時間に及びます。愛好家の方に誘われて、計3回プレイしました。

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そして私自身、買っちゃいました。日本でも何回かプレイしましたけど、「全員敗北」で終わりやすいので、結構ハードです。

 

日本ではアナログゲーム会の情報はウェブやミクシィ等で探したり、ゲームスペースに通ったりすることが多いと思いますが、ロンドンでは"Meetup"というSNSが流行っています。

www.meetup.com

こちらは催し物を中心としたSNSで、同好の士とかローカルイベントを探すのにとても便利でした。

Meetupは日本にも上陸しているのですが、残念ながらあまり普及していません。

 

あと、ロンドンでアナログゲームを買うなら、なんといっても”Orc's nest"です。

Orcs Nest Games Shop

2階建ての狭い店内にボードゲームTRPGがひしめき合っています。私が滞在していた頃は、Pathfinderが全盛で、ラブレターのバージョン違いも10種類以上ありました。

 

私の住んでいたのはテムズ川の南側の下町なのですが、徒歩3分のパブで毎週ゲーム会をやっている小さなグループがありました。主催者のマシューさんには大変お世話になりました。

 

機会があれば是非また行ってみたいですね。

本当は、TRPGセッションに参加したかった!ロンドンではD&Dも盛んです。でも、どうしても言葉の壁があるんですよね。。。

 

以上、ロンドンのアナログゲーム事情でした。

はじめてゲームブックと関係ないこと書いちゃった。

「デレクの選んだ魔法」制作裏話 その5 テーマとギミック

どうも、ちゃなです。新作ゲームブック「デレクの選んだ魔法」の舞台裏を解説するコーナーもいよいよ最終回。今回は作品の底に流れるテーマについて解説します。

(ネタバレはありません。)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

 

以前私は本ブログで本作のテーマを「人生」そして「後悔」と書きました。

しかし、このテーマは実は制作過程も終盤に入ってからようやく見えてきたものです。

当初は、とにかく主人公が色んな魔術を習得して使いこなす話にしようというノリでいました。

その後で、「究極の魔術」というプロットを思いつきました。例えば、火炎の究極の魔術を習得すると、核爆発さえも起こすことができる、その代償として、手に触れるものは全て燃え尽きてしまう呪いに襲われる、それでもあなたは究極の魔術を手に入れたいですか?といった、ちょっと哲学的な話を考えていたのです。結局この話は私の中で煮詰めきれないまま立ち消えになりました。

 

代わって、デレクの成長を描くということになって、官僚や冒険者など様々なフィールドで活躍するデレクが思い浮かんできました。そして、やっぱり、デレクが魔術を学ぶきっかけとなったあの事件に対する決着をつけてみたくなったのです。それも、本作らしく、またゲームブックらしいやり方で。

本作には私の作品には珍しくパラグラフジャンプが出てきます。パラグラフジャンプは、各パラグラフに「隠された意味」を持たせるのに有効な手段です。本作におけるパラグラフジャンプの使い方は、魔術を学ぶときの心構えと密接に関係しています。本作は、パラグラフジャンプのギミックなしには成立しないのです。

そして私はデレクが魔術を学ぶ動機の一つを、人生と後悔から自由になるためと設定しました。この辺りの絡みは、是非本文を読んで感じ取っていただければ幸いです。

 

最終的に、デレクは私が思っていた以上に大きな人間になりました。ありがとう、デレク。そして本書を手に取ってデレクに命を吹き込んでくれたあなたに、あらためて深く感謝いたします。

「デレクの選んだ魔法」制作裏話 その4 キャラクター

どうも、ちゃなです。

「デレクが選んだ魔法」制作の舞台裏、今回はキャラクターについてです。

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

なお、本稿に重大なネタバレはありませんが、まったく予備知識なしでプレイしてみたいという方は閲覧をお控えください。

 

主人公は、デレク。初登場時は12歳の少年で、ちょっと腕白で悪戯好きなところのある農家の息子です。それが時を経て魔術師として大成するのですから、その半生の間には多くの出会いと別れがあったはずです。

 

まずは、デレクの伯父であり、王立魔術アカデミーの教授であるラスター。若くしてアカデミーで上り詰め、デレクを魔術の道に引き込んだ張本人ですから、相当我が強い人物のはずです。自分の信念を果たすためなら周囲との摩擦も厭わない、端から見ると少々我が儘な人物にも映るでしょう。しかし、本作の陰の主人公とも言えるラスター、それだけでは収まりません。登場シーンも多いので、読者の皆さんは本作のそこかしこで、ラスターの色んな面を見ることでしょう。ラスターとのつきあい方をどうするかが、デレクの運命を分けることにもつながります。

 

では他の教授陣はどうでしょうか。

とにかく8人もいるのですから、読者が混乱しないように特徴付けしなければなりません。

私がまず心がけていることは、似たような名前を避けることです。具体的には、最初の文字を重複させないようにしています。アイリス、カストロ、サイフリート、ツルニコフ、ナンシー、パトリシア、ユーゲン、ラスター。見事に全員イニシャルが違うでしょう?

年齢的には、サイフリートとパトリシアを特に高齢に設定しました。ただ、この時代の平均寿命を考えると、30代のラスターでもそこそこ長生きの領域です。他の教授陣も大概年齢不詳ですね。

特にサイフリート学長は、重要なキャラなので、禿頭でテレパシー使いの人格者という「プロフェッサーX」風を裏切る意味も込めて、マッチョな武闘派、しかし口調はとぼけ老人というミスマッチを作りました。

ナンシーとアイリスのキャラが被ってしまったので、アイリスは男口調にしました。

カストロはラスターとの差別化のため、口調を丁寧語にしました。なんかフリーザみたいになってしまいましたが。。。

 

続いて、アカデミーの同級生です。

ヒロインはやっぱり必要ということで、メグというキャラを最初に作りました。あくまでも本作はデレクの成長譚なので、ヒロインに過剰な個性は要りません。正統派美少女で気立ても優しく、でもやるときはやる、そして出自には陰があって……と、割とお約束を守った設定になりました。

ちなみに彼女の父親、ミニッツ・ミリオン男爵の名前は語呂だけで決めました。

ダミアンは、よくあるいじめっ子的役回りなのですが、物語終盤では彼も立派な青年なので、その心の成長も描かれねばなりません。本編ではなかなか見せ場がなく、不遇な立場ですね。でも、活躍することだけが格好いいことではないと言うことを彼は教えてくれます。とあるシーンで主人公がダミアンに感謝を表するところがあるのですけど、それはちゃなからダミアンへの慰労の言葉でもあります。

 

前作とのつながりとして、「ネイキッドチェイサー」に登場したブレイガス伯爵を登場させようというのは早いうちに決断していました。「チェイサー」ではある理由で主人公の敵に回りますが、本作での伯爵はとにかく有能で畏れ多く、デレクにとっては厳しい世間の象徴的存在です。書いてる時は「スター・ウォーズ」シリーズのパルパティーンを想像していました。まあ、名前も同作のダース・プレイガスからいただいたのですが。。。

当初はコンギットのミザール公も名前だけ登場させる予定だったのですが、ミザール公はネイキッドシリーズの20年前には多分まだその地位に就いていなかったと思われるので、急遽レナード公に変更しました。この変更は推敲も終盤に入ってからのことです。

 

次回に続きます。

「デレクが選んだ魔法」制作裏話 その3 魔術

どうも、ちゃなです。

新作ゲームブック「デレクの選んだ魔法」の宣伝を兼ねて、その制作の舞台裏を紹介していきます。

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

 

本作には、全部で12種類の魔術が登場します。

以前に書きましたが、一つのゲームブックで扱える魔術の数は、12種類が限界に近いと思っています。

バルサスの要塞」も「サソリ沼の迷路」も12種類、「ソーサリー!」は4部作で全48種類。奇妙な符合ですね。

 

そこで、12種類というのは決めておいて、あらゆる魔術的現象を12種類に分別するにはどうしたら良いかを考えていきました。

 

まず、すべての事象を操るとなると、「時間」と「空間」は外せません。なにしろ「ネイキッドチェイサー」ではサー・デレク自ら空間の術を操っています。

それから、物理法則へ干渉する魔術体系があります。攻撃呪文として絵的にも魅力のある「火炎」と「氷結」。もう一つ、「ネイキッドウォリアー」でサー・デレクが稲妻を放つシーンがあるので、「稲妻」もやっぱり入れないといけません。

あとは、人間の欲望を考えた場合、「治療」は必ず魔術のテーマになります。その反対属性として「衰弱」も採用しました。

それから、空を飛んだり、手に触れずにものを動かしたりと、色々楽しめるということで、「念動」も欲しいところです。

ネイキッドシリーズでは、異界の悪魔が召喚されて大騒動を引き起こすというテンプレートがあります。したがって、「召喚」も必要です。

残りは少々迷いました。「思念」はファンタジーのみならずサイキックものでも定番の超能力ですが、効果が強すぎるとこれ一つで何でもできてしまいます。「幻影」もファンタジーゲームでは採用率の高い魔法の一つです。

「召喚」の反対属性として「解除」を考えたのですが、カウンタースペルというのはゲームブックでは結構使いづらいんですよね。主人公が魔術の使い手と対峙する機会はそうそうありませんし、出たら出たで解除を使えないとデッドエンドになりがちです。本編の制作過程でも、解除の術を使えるシチュエーションをどう調整するかが大きな課題でした。

最後まで迷ったのは、予知とかお告げの類です。読者が判断に迷う局面でヒントを差し上げるという点で非常に使いやすいのは確かなのですが、現実に影響を及ぼさない魔術のために1枠を割くというのはちょっと勿体ない気がして、結局採用を見合わせました。

 

こんなわけで、12種類の魔術は、ちゃなの感性というよりはむしろ論理的に決めていったのです。

続いて、この魔術同士の関係性を考察する作業に入りました。この過程は、「デレクの選んだ魔法」のプロットの根幹に関わる部分です。ここが決まると同時に、魔術の習得方法やダンジョンの構造など、幾つかの大事な要素が連鎖的に決まっていきました。

 

さらに次回に続きます。