ちゃなのゲームブック

ゲームブック作家「ちゃな」のブログです。Amazonキンドルで「デレクの選んだ魔法」等販売中!

フラグワードシステムについて

どうも、ちゃなです。

「フラグワードシステム」この言葉を聞いたことがある方、有り難うございます!だって、私が作った用語ですから。

(以下、「デレクの選んだ魔法」ほか、拙著の内容がちょこっとだけ出てきます)

 

フラグワードシステムは、「ネイキッドサバイバー」で初登場し、「デレクの選んだ魔法」でも採用した、フラグ管理のためのシステムです。

ネイキッドサバイバーの裏話エントリでも簡単にご説明しましたが、これは一言で言うと、「ドラクエ復活の呪文に言葉としての意味を持たせたもの」です。

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

 

 

そもそもフラグとは、「強制的な分岐のトリガー」を意味します。

ゲームブックでは、パラグラフ分岐が複雑になると、同じパラグラフを複数の展開で使い回したり、主人公の過去に取った行動が未来に影響を及ぼしたりするようになります。そのため、同じパラグラフであっても、それまでの経緯によって次の飛び先を強制的に分岐させる必要が出てきます。

フラグを立てるためによく使われるのが、アイテム(所持品)です。

拙著「ネイキッドチェイサー」では、何色の指輪を嵌めているかが、同行者の有無を示すフラグになっていました。

ネイキッドチェイサー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドチェイサー (ちゃなのゲームブック)

 

 

アイテム以外でフラグ管理を行おうとすると、もう少し抽象的な仕組みが必要になってきます。

キーナンバーとか、チェックリストを読者に管理してもらう方法がスタンダードです。

1000パラグラフ双方向の大作「ネバーランドのリンゴ」では、キーナンバーが32個も用意されています。

ネバーランドのリンゴ (スーパーアドベンチャーゲーム)

ネバーランドのリンゴ (スーパーアドベンチャーゲーム)

 

でも、32個の数字を憶えていられる人はいませんよね。キーナンバー方式は、紙と鉛筆、もしくはアプリの機能がないと成立しないシステムです。 

 

それに対して、フラグワードシステムは、数多くのフラグを一つの意味のある単語で管理してしまおうという仕組みです。

 

フラグワードシステムの利点は下記の通りです。

 

1.一つの言葉で、物語のすべてを管理できる

「デレクの選んだ魔法」では、一つのフラグワードに実にたくさんの意味を持たせています。

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

例えばアカデミー1年生の時期には、「学生としての知力レベル」「火蜥蜴を持っているか否か」「シグレ草を持っているか否か」「ナイトシェードを持っているか否か」といった情報がフラグワードに収納されています。

これが社会人になると今度は、「疲労度」「悪意度」「貴族との関係」「陰謀を阻止したか否か」といった情報がフラグワードに書き込まれています。

ちなみに最終決戦では、3つのパラメータを用いて戦局を管理しています。

 

2.選択した行動の影響を読者に隠すことができる

「デレクの選んだ魔法」では、ある行動を取ると「疲労度」が上がっていきます。そして、一定数を超えると、主人公は病に倒れてしまうのです。

このような展開を、通常のゲームブックではヒットポイントなどで管理しています。また、キーナンバーなどを用いる作品でも、どの値を動かすかを見れば、行動の結果がどのようなボーナスまたはペナルティになるのか、読者は何となく予想がついてしまいます。

フラグワードシステムは、各種ポイント管理やキーナンバーに比べて、パラメータ変化の意味を読者に感づかれにくいという特徴があります。本作ではこれをうまく活用することで、何が主人公にとって最善の行動かが選択の直後にはわからないようになっているのです。

 

3.フラグワード自体に意味があることで、憶えやすい

読んで字のごとくですね。ただ情報を暗号化するだけなら、五十音2文字で2000種類以上の状況を管理できますが、「フラグワードを「らに」から「しきつ」に変更せよ」とか言われてもなかなか憶えられません。「もえさかる」から「もえつきる」とかの方が、憶えやすいですよね。

 

4.フラグワード自体の意味を使ったギミックも可能

これはまだ実験段階ですが、「デレクの選んだ魔法」では、フラグワードの言葉の示す情報のみならず、その言葉自体に意味を持たせている箇所が何カ所かあります。いずれも本作のテーマとも言うべき言葉です。

ドラクエ復活の呪文でも、偶然にせよ意図的にせよ意味の通る文章になっている例がありましたね。

 

こんなふうに幾つかメリットのあるフラグワードですが、一方欠点はと言うと。。。

 

1.収納できる情報量が少ない

一つのフラグワードに込められる情報には限りがあります。

平仮名の羅列ではなく、意味のある文字列に絞るとなると、例えば「ら行」で始まるフラグワードはほとんど作れません。

私は、「デレクの選んだ魔法」の執筆にあたり、すべての五十音の組み合わせを試しました。

その結果、一文字目16パターン、二文字目8パターン、文字数5パターン、総計640種類のフラグワード(+特殊なもの)を作成することになりました。

640種類もあれば十分だろうと思うかも知れませんが、そうでもありません。

原案の段階では、デレクが習得した魔術の種類もフラグワードに組み込むつもりでした。しかし、全12種類の魔術の習得過程がそれぞれ独立している(「ある魔術を覚えてからでないと次の魔術が覚えられない」というようなことがない)場合、組み合わせは2の12乗で4096通りにもなります。全然足りませんよね。そこで、習得した魔術の種類は別個に読者の皆さんに把握しておいていただくことにしました。

本作では他に物語の進行度を示すフラグが全編通じて必要になります。これを文字数に当てはめました。実際にプレイしていただくと、物語の節目節目でフラグワードの文字数が2文字から3文字、4文字と上がっていくのが体験できるかと思います。

残りの変数は128、つまり2の7乗ですから、単純な「あり/なし」のフラグなら全部で7つまで仕込めることになります。4段階に変化するフラグだと3つくらいしか管理できません。

当初は、「ダミアンの好感度」とかも考えていたのですが、涙を飲んで切りました。

 

2.記載が面倒くさい

そんなわけで、後に影響する行動をするたびにフラグワードは書き換わるわけですが、その都度640種類のフラグワードを並べていては、作者も読者も疲れ果ててしまいます。本としても単語の羅列が延々と続くことになり、格好悪いことこのうえありません。

本作では、展開上ありえないフラグワードはいちいち記載しないようにして、かなり容量を削っています。それでもなお、要所ではフラグワードの変更規則だけが何ページも続く場所ができてしまいました。

フラグワードを並べ立てずに済むように、あえて物語の展開を単純化した箇所もあります。でもそれって本末転倒ですよね。

 

3.やっぱり憶えていられない

意味のある言葉とはいえ、単語を一つずっと頭の中に置いておくというのは、結構ワーキングメモリを消費するものです。夢中で読み進めるうちに現在のフラグワードを忘れてしまった方もいたのではないでしょうか。実は私もテストプレイ時にしばしば忘れてしまいました。

そうすると、やっぱりメモを取るなりキンドルでハイライトしておくなりの対処が必要になってきます。

 

4.推敲が難しい

フラグワードは、読者からは仕組みが見えづらいシステムです。それは作者にとっても同じです。

「ネイキッドサバイバー」ではフラグワードは全部で100種類程度で、全編通じてその意味する内容は一緒でした。しかし「デレクの選んだ魔法」は、数自体が多いうえに、同じフラグワードでもパラグラフによってその示唆する情報が異なります。このため、推敲がものすごく大変になりました。

例えば「ここは1ダメージ受けるところだったけど、やっぱり2ダメージにするか」と思っても、そう記述を書き換えるのではなくて、フラグワードがどう変わるかを全部検証して、さらに展開上あり得ないフラグワードを除外するという作業が必要になるのです。おまけに一つのパラグラフを直すとその後にも影響が及びます。

 

5.コンティニューがやりづらい

ゲームブックをプレイしていて途中で死んでしまった場合、律儀に初めからやり直すでしょうか?少しだけ戻って別の選択肢を試したくなること、ありますよね。

通常のゲームブックの場合、直近に手に入れたアイテムを消したり、失ったヒットポイントを回復させたりするだけで良いのですが、フラグワードシステムではそうはいきません。場面場面に応じて、適切なフラグワードが異なるので、フラグワードを変更したパラグラフと変更内容を逐一記録しておかないと、物語を正確に巻き戻すことができないのです。

これがヒットポイントくらいなら、多少間違っていても何となく進めることができますが、フラグワードは物語の展開全体を記述しているので、間違ったまま進めると、例えば秋が終わったのにまた秋が始まったりといった、展開の齟齬を来たすリスクがあります。

 

「デレクの選んだ魔法」を執筆中にこのことに気付いた私は、「コンティニューシステム」の導入を考えました。コンティニューシステムは、「ネバーランドのリンゴ」でも採用されていますが、デッドエンドのパラグラフに、リスタート地点を示しておいてあげることを言います。

例えば、「ゲームオーバー。コンティニューする場合は、フラグワードをXXXXに変えてYYYへ飛べ。」などと書いておけばいいのです。

是非作ってみたかったのですが、本作は構成が複雑で、何処まで戻れば良いか、その際にフラグワードをどう変えればよいかがとてもわかりづらかったため、断念しました。

 

6.作るのが面倒くさい

一番の問題はこれですね。「デレクの選んだ魔法」でフラグワードマトリクスを作成して、選択肢に導入するだけで、1ヵ月近くかかってしまいました。前半は辞書とにらめっこ、後半はフローチャートを上から下まで辿ることの繰り返しです。普通にキーナンバーなどで管理していれば、せいぜい数日でできたはずです。

 

7.翻訳と相性が悪い

説明不要ですね。フラグワードシステムは日本語の妙を活用した仕組みなので、翻訳不可能です。もしも英語でフラグワードシステムを構築したら、どんな感じになるんでしょうか?

 

そんなわけで、「デレクの選んだ魔法」ではフラグワードシステムを全面的に採用しましたが、ちゃな的にはそれなりにやり尽くしたかなという感じです。

なるべく筆記具なしで楽しめるゲームブックというコンセプトにはこだわっていきたいので、また新しい方法を考えてみたいと思います。

フラグワードシステム自体も、特定の性質を持つゲームブックと相性が良かったりするので、いずれ進化した形でお見せできるかもしれません。

 

今回はフラグワードについてでした。

ではまた。