どうも、ちゃなです。
メディアは、それぞれ独特の性質を持っています。
小説には小説の、映画には映画の、そしてゲームにはゲームの良さがあります。
そして、小説でなければ表現できないものや、その逆もあります。
例えば古典的名作、ブラウン神父シリーズの「見えない男」。ある人物が消失して、見張り達は「誰も通っていない」と証言するのですが、それが全く事実と異なっていたという、一種の心理的盲点をついたプロットです。映像にしてしまうと、件の人物が堂々と通路を横切っているのが見えてしまうので、「映像化不可能な作品」と称賛されました。
ゲームでしか表現できないことも多いですよね。「極限脱出 9時間9人9の扉」には、ニンテンドーDSでなければ表現できないトリックを、プロットの中核に据えています。のちに発売されたPS VITA版ではうまく工夫していたようですが、やはりDSには劣るようです。
メディアにはそれぞれの特徴があるのであって、絶対的な優劣があるというわけではありません。
よく、ゲームブックはコンピュータゲームの隆盛によって衰退したと語られるのですが、確かに容量の問題や、ゲームブックがもともとテーブルトークRPGの代替として開発された(らしい)という経緯はあれど、ゲームブックにはゲームブックでしか表現できない要素があるのです。
では、ゲームブックでこそ表現できるものとは、いったい何でしょうか?
(1)スケジュール管理アドベンチャー
ゲームブックでは、よく同じパラグラフを使いまわします。
容量を節約するためもあるのですが、同じパラグラフに何度も読者を誘導することで、「あ、この選択肢は前に見たな」「外れだったな」と認識(あるいは誤解)させたりするという目的があります。
コンピュータのアドベンチャーゲームだと、テキストは同じでも、まったく同じ行程を繰り返しているかどうか、プレーヤーは判別できません。ゲームブックなら、パラグラフが同じなのではっきりとわかります。
スケジュール管理を主体とするアドベンチャー(「ときめきメモリアル」や「アトリエ」シリーズなど)の構造と、ゲームブックはよくなじみます。
拙著「デレクの選んだ魔法」では、前半で学園アドベンチャーの要素があります。春夏秋冬で主人公の行動を選択するのですが、いくつかのパラグラフを使いまわし、特定の選択肢を特定の時期に選ぶと特別な展開に入る、というギミックを用いています。
同じ理由で、同じ時間軸を何度も繰り返すタイムリープものも、ゲームブックと非常に相性がいいです。
タイムリープを初めて導入したゲームブック作品は、おそらくかの有名なスティーブ・ジャクソン氏の「諸王の冠」でしょう。
諸王の冠―ソーサリー〈04〉 (Adventure game novel―ソーサリー)
- 作者: スティーブジャクソン,Steve Jackson,浅羽莢子
- 出版社/メーカー: 創土社
- 発売日: 2005/04/01
- メディア: 単行本
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近年では、山本弘氏の「長時間の檻」が白眉です。クトゥルフ神話の設定を活かして 全編タイムリープをふんだんに盛り込み、とても200パラグラフとは思えないほどの重厚感をもたらしています。
おいしいたにしさんの「寄生木の夜」も傑作ですね。人物憑依と巻き戻しの能力を持つ主人公がいろいろな作中人物の視点を借りて事件の真相を探っていく展開は、なんだか空中ブランコを順番に乗り移っているような感覚と近いものがあります。
例によって拙著「デレクの選んだ魔法」でも、タイムリープに真っ向から挑んでいます。
(2)推理もの
ゲームブックは読者が主人公の行動を決めるメディアです。
選択次第で謎が解けたり、重要人物が死んでしまったりと、展開が分岐していくのが、ゲームブックの醍醐味です。
推理小説を読んでいて、「自分だったらこんな行動はとらないのに」「自分が探偵なら、最初の殺人を防ぐこともできるのに」と思うことはありませんか?ゲームブックなら、その望みを叶えることができますよね。
ただ、推理ものは製作の難易度が高いためか、あまり数が多くありません。
「ツァラトゥストラの翼」では、ミステリ作家である岡嶋二人氏がガチで読者に挑戦状を叩きつけています。
純粋なゲームブックというよりは、ゲームブックのギミックも使ったパズルブックという面持ちの「シャーロック・ホームズ 10の怪事件」。ロンドンの地図や新聞なんかも作り込まれた力作です。
未訳ですが、シャーロックホームズもののゲームブックは結構出ています。
Murder at the Diogenes Club (Sherlock Holmes Solo Mysteries)
- 作者: Gerald Lientz
- 出版社/メーカー: Berkley Pub Group
- 発売日: 1987/09/01
- メディア: ペーパーバック
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もちろん、コンピュータゲームでもインタラクティブ推理ゲームは可能です。むしろコンピュータゲーム作品の方がずっと多いでしょう。
でも、ゲームブックには、クリア後のお楽しみ「選択肢を無視して通読する」というやり方があります。推理もののゲームブックを通読すると、主人公の名推理や死に様などがアトランダムに出てきて、ちょっとしたオムニバス小説を読んでいるような独特の感覚が味わえます。(決してクリア前にやらないこと!)手軽に全シーンに目を通せるのも魅力と言えます。
(3)インストラクション
ここまでくると、「ゲームブック」の一般的なイメージから少しずれてきますが、インタラクティブメディアとしての性質を活用するならば、プレーヤーに遊び方の説明をするのにゲームブックはいい媒体になりえます。
トンネルズ&トロールズのソロアドベンチャーシリーズが有名ですね。ダンジョンズ&ドラゴンズや、ファンタジートリップなどでも、ルール理解の練習用ソロアドベンチャーが収載されていました。
ゲーム以外でも、解説書にゲームブックを載せている作品って、探せば結構あるものです。ここでは本の体裁をとっていることが重要で、コンピュータと違って選択による画面遷移などが構造的に理解できますし、何度でも読み返すことができます。
他にも探せばいろいろとあると思います。