ちゃなのゲームブック

ゲームブック作家「ちゃな」のブログです。Amazonキンドルで「デレクの選んだ魔法」等販売中!

ゲームブックにおける「ラスボス」について

どうも、ちゃなです。

(本稿はいくつかの作品のネタバレを含みます)

 

たいていのロールプレイングゲーム、特にコンピュータRPGでは、戦闘が起こります。主人公に敵対する勢力と厳しい戦いを繰り広げた末に勝利を収めるというのが王道ですよね。

敵にもランクがあり、ザコから中ボス、ラスボス、さらには隠しボスなんて存在もあったりします。このボスが強ければ強いほど攻略意欲を掻き立てられます。一人用ゲームだと、ボスの強さはゲームとしての寿命にも直結することになります。

 

しかし、ゲームブックでラスボスの強さを表現するのって、結構難しいです。

理由は2つあります。

 

一つは、数値計算の繰り返しを得意とするコンピュータRPGに比べて、ゲームブックは戦闘のために大量のデータを扱うことが苦手であること。

そのため、ゲームブックにおける戦闘ルールは概して単純です。

「ラスボス 技術点12、体力点18」と言われた瞬間に、主人公が勝てる確率がおおよそ予想できてしまいます。

ただの殴り合いでなく、特殊攻撃などを敵の行動ルーチンに組み込むことも可能ですが、その分専用のパラグラフが増えることになります。ボス戦だけにあまりページを割くわけにはいきません。

 

二番目は、多くのゲームブックが「消耗戦」であることです。

ファイティングファンタジーシリーズに典型的ですが、主人公はスタート時点で最大の体力点を持っていて、物語の進行と共にどんどん消耗していきます。回復のチャンスが設けられていることもありますが、コンピュータRPGみたいに「ボス戦前に全快してセーブ」みたいな定石はありません。

また、多くのゲームブックは容量の都合上、主人公の成長(レベルアップ)要素があまりありません。

なので、ラスボスの強さを体現するために無理やり能力値を高くすると、攻略不可能になってしまうんですね。

 

結果として、ゲームブックのラスボスは、数値的な強さよりも、特定のアイテムや行動をとらないと倒せないというアルゴリズム的な形で、表現されることが多くなっていまるように思います。

火吹山の魔法使い」のザゴールは技術点11でした。

対して、「バルサスの要塞」のバルサスは技術点12を誇りますが、魔法だけで倒すことが可能です。「ソーサリー!」四部作のマンパンの大魔王は(完全形態でないゆえですが)技術点7しかなく、「盗賊都市」のザンバー・ボーンや「モンスター誕生」のザラダン・マーには能力値すら与えられていません。

 

ラスボスが不在で、攻略過程を楽しむことに重きを置いた作品も多いですね。

 

もちろん、ラスボスの強さを体現したゲームブックもあります。

代表的なのは「ドルアーガの塔」三部作でしょう。本作はドルアーガ討伐が初めから目的として提示されているので、ラスボス戦を盛り上げることが物語上不可欠です。また本作は双方向作品なので、ボスに挑む前に主人公を成長させる機会が十分に用意されています。

そのことを意識してなのでしょう、ドルアーガは複数の戦闘形態を取り、多彩な攻撃を仕掛けてきます。戦闘ルール自体はサイコロを振るだけですが、途中で襲ってくる特殊攻撃をどうかわすかが勝敗を分けることになります。強敵なだけに、倒した時のカタルシスはかなりのものです。

魔界の滅亡 (ゲームブック・ドルアーガの塔)

魔界の滅亡 (ゲームブック・ドルアーガの塔)

 

 

対極的に、ラスボス戦そのものをエンディングの一部として、必ず勝てる仕様にしている作品もあります。コンピュータゲームだと「グラディウス」シリーズが代表的ですね。

エスパー火の王の伝説」では、ラスボスは7連戦で、最終形態は6ゾロを振らないと勝てないという鬼仕様なのですが、実は何度負けてもアイテムや仲間が窮地を救ってくれて、必ず勝利できる仕組みになっています。

fantasy.base.ec

 

「護国記」の最後にも強大なラスボスが待ち構えていますが、攻略に苦労するということはありません。すべきことは、それまでの長い旅を振り返り、叙事詩的戦いの終局を味わいつくすことだけです。

護国記 (幻想迷宮ゲームブック)

護国記 (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

白熱した戦いをゲームブックで楽しむならば、むしろ他の要素は一切そぎ落としてしまいましょう。そういう発想で作られたのが、「クイーンズブレード」シリーズです。古くは対戦型ゲームブック「魔術師の挑戦」なんかもあります。

デュエル・マスター〈1〉魔術師の挑戦 (富士見文庫―アドベンチャー・ゲームブック)

デュエル・マスター〈1〉魔術師の挑戦 (富士見文庫―アドベンチャー・ゲームブック)

 

 

ちなみに拙作「デレクの選んだ魔法」では、黒幕との因縁に決着をつけるためにラストバトルが不可避になっています。直接攻撃と魔法による攻撃・防御をどのように組み合わせるかを悩んでもらうため、かなりのパラグラフを割き、専用のフラグ管理システムも組み込んでいます。さらに、主人公がパーフェクトなルートを辿ってきた場合には、ラスボスのアルゴリズムもパワーアップするという、隠し仕様を加えています。

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

デレクの選んだ魔法 (ちゃなのゲームブック)

 

 

今回は、ゲームブックにおけるラスボスについてでした。

ではまた。