どうも、ちゃなです。
ゲームブックに用いられる技法の一つに、「パラグラフジャンプ」というものがあります。
今回はこの技法について紹介します。
パラグラフジャンプとは、「特定の条件下で発動する、本文に指示されていないパラグラフへの転移」のことを指します。
(公式な定義というのがあるわけではありません)
(追記:単に指示されたパラグラフに飛ぶこと全般を「パラグラフジャンプ」と呼称していることもあります。)
普通、ゲームブックでは、各パラグラフに、次に読むべきパラグラフが明示されています。
例えば、こんな感じです。
101 君は強敵を目の前にしている。
→戦うなら 102へ
→逃げるなら 103へ
102 君は必死で戦ったが、敵に殺された。 END
103 君は必死で逃げたが、敵に殺された。 END
おや、どちらを選んでも、ハッピーエンドにたどり着けませんね?
ところが、パラグラフ101にたどり着く前に、こんな経緯があったとします。
100 君は老人から話を聞いた。
「敵に会ったら、死んだふりをしてみると良い。無抵抗の相手には攻撃しないのが、この国のルールだ」
もしこの先君が敵に遭い、死んだふりをしたければ、そのパラグラフに3を加えたパラグラフに進むことができる。
→先に進むなら 101へ
このように、パラグラフ100で情報を得ている読者は、パラグラフ101の選択肢に示されていない行動を取ることができるのです。
104 君は死んだふりをした。
敵は去って行った。
君は起き上がって旅を続け、遂に目的地にたどり着いた。 Happy END
このように、パラグラフジャンプは、普通に読み進めていては気づかない選択肢を読者に提供するものなのです。
当然、このようなシステムは、紙またはキンドル本のような紙とほぼ同じ仕様のゲームブックでのみ成立するものです。
ゲームアプリなどでは、読者に見えないようにフラグ管理を行うことが可能なので、パラグラフジャンプを使わずとも、読者ごとに異なった選択肢を示すことができますし、そもそもパラグラフの概念自体が不要になります。
パラグラフジャンプをゲームブックに導入することで、いくつかのメリットがあります。
(1)ゲームブックの寿命を延ばす
基本的にゲームブックは、選択肢を総当たりで選ぶことで、いつかエンディングにたどり着くことができるようになっています。
パラグラフジャンプを要所に挟み込むことで、いわば隠しルートを作ることができ、読者はエンディングにたどり着くルートを見つけ出すことが難しくなります。
肝になる選択肢を隠しておくことにより、正解のルートが偶然目に入ってしまうことも避けられます。
例:「ハウス・オブ・ヘル」は最も難しいゲームブックの一つと言われていますが、その理由の一つが、パラグラフジャンプにより正解ルートが巧妙に隠されていることです。
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(2)選択肢を選ぶ現実味を持たせる
上の例では、死んだふりをすることで戦いを避けられるという情報がなければ、普通の読者はそんな選択肢を取ることなど思いも寄らぬことでしょう。
はじめから、「死んだふりをするなら~」という選択肢を記載しておくのは、いかにも不自然です。
パラグラフジャンプの仕組みにより、特定の情報を得た読者だけに特別な行動を許すことができます。
例:「諸王の冠」では、燃えさかる炎の中に対して、幻影だと信じて飛び込むという選択肢があるのですが、普通に飛び込んだら死んでしまいます。ところが事前情報を得ていると……
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(3)読者のチートを防ぐ
例えば、「この謎の答えがわかったら、そこに示された数字のパラグラフに進め」といった形でジャンプ先を隠しておくと、読者は本当に謎を解かなければ先に進めません。
これにより、ずるをして先に進もうとする読者を足止めできます。
パズル性の高いゲームブックでは必須とも呼べる手法です。
例:ピラミッド・ゲームブックのシリーズは、とにかく攻略難易度を極限まで高めようというコンセプトの作品です。全編にわたりパラグラフジャンプが仕込まれており、解析を困難にしています。
(4)真の展開を隠す
あるパラグラフを2回訪れることがあって、2回目には別の展開が待っているようなことがあります。
初めて訪れた読者にそのことを悟らせないように、2回目でのみ発動するパラグラフジャンプを組み込んでおくのです。
同じパラグラフを使い回す、双方向型のゲームブックや、ループものなどで用いられるテクニックです。
例:「諸王の冠」でZEDの魔法を使った後の展開がこれに当たります。詳細は伏せますが、魔法の効果をリアルに感じさせる、実に見事な技法だと思います。
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(5)文章の集約
例えば、主人公が習得した魔法をどこでも使えるようなゲームブックを作りたい場合、その効果をいちいち個別のパラグラフで記述していては、膨大な容量が必要になります。また、いちいちすべての魔法をあらゆるパラグラフで選択肢に示すのも、あまりにも冗長といえます。
そこで、「回復の魔法を使うなら、そのときのパラグラフを記録しておいて、100へ進め」等と指示しておき、パラグラフ100には「回復の魔法を一つ消して、体力ポイントを4増やし、もといたパラグラフに戻れ。ただし、パラグラフXXではこの魔法は効果を発揮しない。パラグラフYYで魔法を使った場合は、ZZに進め」等と記載しておけば、魔法の処理を一つのパラグラフに集約することができます。
例:「悪夢のマンダラ郷」では、とある魔法を習得すると、いつでも使えるようになります。
もちろん、間違ったタイミングで使ったら、バッドエンドに直行です。いつ使うべきかを見極めるのが、また一つの謎になっています。
このように、パラグラフジャンプには様々な用途があります。
他方では、パラグラフジャンプには次のような欠点もあります。
(1)パラグラフジャンプのタイミングがわかりづらい
どのタイミングでパラグラフジャンプを行えば良いのかわかりづらいことがあります。
ついつい読み飛ばしてしまって、タイミングを逃してしまうこともあるでしょう。
もっとも、それを逆手にとって、注意深い読者だけにジャンプさせるよう仕向ける手法もあります。
例:「魔の罠の都」では、人混みの中に知り合いを見つけて助けてもらえるという展開がありますが、その際のパラグラフジャンプは、読者が積極的に気を配っていなければ、ついつい見逃してしまうようにできています。
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(2)計算が面倒くさい
「そのときのパラグラフにXを足したパラグラフに進め」といった指示だと、読者はジャンプ先を決めるために暗算が必要になります。
Xが3とかならまだしも、67とかだと、結構面倒くさいです。
(3)電子書籍と相性が悪い
電子書籍によるゲームブックでは、選択肢をクリックすれば次のパラグラフに進める仕様になっていることが多く、紙の本より読みやすいのですが、「ぱらぱらめくり」ができないので、パラグラフジャンプで目的のパラグラフを探すのは、紙の本よりも時間がかかることがあります。
対策として、巻末にすべてのパラグラフへのダイレクトリンクを貼っている作品もありますが、それでもやっぱり、紙よりも面倒に感じます。
さらに、パラグラフジャンプを行うゲームシステムでは、読者がいくつかの数値を記録しておく必要があるため、筆記用具やメモアプリなどが必須になることが多いです。この点でも、紙と鉛筆を使う前提のゲームブックの方が、やりやすいといえます。
読者からすると、そんな面倒なことを強いるならはじめからコンピュータのアドベンチャーゲームにすれば良いのに、と思うかもしれませんね。
(4)バグが出やすい
これは作者側の都合ですが、パラグラフジャンプは通常の転移と違った処理をするので、バグチェックが大変です。
最近のゲームブック作成ツールでは、パラグラフをランダムに並べ替えてくれる機能がついているものが多いですが、パラグラフジャンプに関わるパラグラフをあらかじめ除外しておかないと、つながりがおかしくなってしまいます。
さらに言うと、本来つながらないはずのパラグラフが、偶然、一見つながっているように読めてしまうことがあり、読者の混乱を招くことがあります。こんな事態を確実に防ごうとすると、非常に入念な推敲を強いられます。
私は、個人的にはこれらのデメリットを重く見ているので、キンドル本でパラグラフジャンプを使うことには消極的だったりします。
ただ、現在構想中の作品では、いくつかの理由から、パラグラフジャンプを導入しようと思っています。
作風に合わせて、うまく活用したいものですね。