ちゃなのゲームブック

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ゲームブックにおけるマルチエンディング

どうも、ちゃなです。

(今回は紹介作品の重大なネタバレを含みますのでご注意ください)

 

マルチエンディングというのは、文字通り物語の終わり方が複数あるゲームシステムのことを言います。

 

多くのソロゲームでは、作者とプレーヤーの知恵比べ的な要素があって、障害を乗り越えたプレーヤーへのご褒美として、素敵なエンディングが待っています。

ただ、それまでのプレーヤーの選択を問わず最後は画一的なエンディングを迎えるというのは、いささか味気ないという気もしますよね。そこで、それまでの行動過程によってエンディングが変わるようにするわけです。

 

コンピュータゲームでは、多くの作品でマルチエンディングが採用されています。特にテキスト型のアドベンチャーゲームでは、プレーヤーの選択を楽しむというコンセプトがあるため、マルチエンディングが馴染みやすいです。「弟切草」「かまいたちの夜」シリーズなんかが有名ですね。

 

ゲームブックも、コンピュータのアドベンチャーゲームに近いので、マルチエンディングには非常に馴染みが深いです。

というか、バッドエンドも含めると殆どのゲームブックがマルチエンディングを採用していると言えます。

 

マルチエンディングの構造を分類すると、だいたい下記の3パターンに分かれます。

 

(1)無数のバッドエンドと、一つの真エンド

殆どのゲームブックや、一般的なテキストアドベンチャーゲームがこれに該当します。

ゲームブックだと、最終パラグラフがエンディングになっていて、それ以外のエンドパラグラフ(飛び先の示されていないパラグラフ)はバッドエンド扱いという作品が多いですね。

もっとも作風によっては、真エンドよりもベターな結末を迎える展開もあり得ます。

 

古い作品ですが、「ゴーストタワーの魂の石」では、主人公は盗賊と修道士と3人で迷宮に挑むのですが、途中で仲間に裏切り者がいるという疑惑が出てきます。

そこで本作では、2人を見捨てて一人きりでゴーストタワーを脱出した場合のみ、真エンドにたどり着けるようになっています。盗賊か修道士のいずれかとともに生還する結末もあるのですが、本作ではそれらはバッドエンド扱いになっています。なお3人揃って生還する方法はありません。

実際には裏切り者は存在しないようです。孤独と疑心暗鬼、そして仲間を見捨てた贖罪意識を余韻として残したいという、作者の思想が色濃く現れた作品だといえるでしょう。

ゴーストタワーの魂の石 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

ゴーストタワーの魂の石 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

 

 

(2)複数の等価な真エンド

幾つかのハッピーエンドがあり、いずれがベストかは読者に委ねられているパターンです。

作者が特定のエンディングを贔屓していないことを示すため、ゲームブックではあえて最終パラグラフをエンドパラグラフにしないという技法を用いることもあります。

スティーブ・ジャクソン氏の作風ですね。氏はファイティングファンタジーシリーズで「サソリ沼の迷路」「深海の悪魔」「ロボット・コマンドゥ」の三作を出版しています。

「サソリ沼の迷路」では、主人公は最初に依頼人を善・悪・中立の3人から選びます。そして沼地の冒険を終えて成果を報告するところでエンディングを迎えます。善の魔法使いや中立の商人にはまっとうな報告を終えてグッドエンドになりますが、悪の魔法使いに対しては、悪事の片棒を担いで報酬をもらうパターンと、依頼人を裏切って倒してしまうパターンがあります。いずれが主人公らしいかを決めるのは読者の仕事です。

 

「ロボット・コマンドゥ」では、主人公は謎の眠り病から街を救うことになります。病をはやらせた元凶をロボットで制圧するか、一対一の決闘で打ち破るか、病のワクチンを散布して街を復活させるか、三通りの解決法があります。

どの道を選んでも結末は一緒なので、マルチエンディングというよりはマルチプロットと言えるかもしれません。 

ロボット コマンドゥ?ファイティング・ファンタジー (22)

ロボット コマンドゥ?ファイティング・ファンタジー (22)

 

 

私の「ネイキッドサバイバー」も小粒ながらマルチプロットを採用しています。エンドパラグラフは一つだけですが、ラスボスの陰謀を暴くための道筋は複数用意されています。中にはバッドエンドっぽいものもありますが。。。

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

 

 

このパターンは繰り返しプレイを前提として設計されているものですので、コンピュータゲームに馴染みが深いです。アドベンチャーゲームのみならず、シミュレーションゲームにもしばしば採用されています。「プリンセスメーカー」シリーズや「アトリエ」シリーズが代表的ですね。ただ、近年ではプレーヤーのやりこみ意欲を煽るため、難易度の高いエンディングを真エンドとして定義しているものが多いです。

 

竜の血を継ぐ者」のエンディング構成はひとひねりされています。事件の真相に気づいたか否か、及び主人公が脱出できたか否かによって、4パターンのエンディングに分かれるのです。こう書くと、真相に気づいて脱出というのが真エンドのように思われるかもしれません。でも、他の形態のエンディングの方が文学的に遥かに美しいんです。主人公にとって何が本当の幸せなのか、考えされられます。 

竜の血を継ぐ者

竜の血を継ぐ者

 

 

鈴木直人氏も、「魔界の滅亡」のエンディングは、ドルアーガを倒すも脱出に失敗して行方不明になるエンディングの方が好きだと語っていました。

魔界の滅亡 ドルアーガの塔 (幻想迷宮ゲームブック)

魔界の滅亡 ドルアーガの塔 (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

(3)ノーマルエンドに加えて真エンドがある

こちらは最近のコンピュータロールプレイングゲームのはやりです。ノーマルのエンディングで物語は完結するものの、主に2周めのやり込み用に、よりハッピーな真エンドを用意しているというものです。マルチエンディングというよりは、追加シナリオといったほうが良いかもしれません。

 

例えば「ドラゴンクエスト4」のリメイク作では、通常のエンディングではラスボスを倒して終わりですが、追加シナリオではラスボスの裏事情が描かれており、主人公と敵対する理由を解消することによってラスボスとともに真の黒幕に挑むことができます。

ドラゴンクエストIV 導かれし者たち

ドラゴンクエストIV 導かれし者たち

 

ただ、この形態の弱点は、真エンドを見てしまうと、ノーマルのエンディングがバッドエンドみたいに思えてしまうということです。旧作を毀損されたと思う人もいるようです。

 

そこでこのパターンでちゃなが最高傑作の一つに挙げておきたいのが、「ルナ2 エターナルブルー」のリメイク作です。本編ではラスボスを打ち倒した後、役目を終えたヒロインが月に帰ってしまい、主人公はいつか再会することを誓って終わります。これだけで物語は完結しているのですが、追加シナリオでは主人公が実際にヒロインを追いかけて月に向かうことができます。そして眠りから覚めたヒロインと月世界の復活を見届けるという真エンドに到達します。本作はノーマルエンドも真エンドも相手の良さを殺さず完全に成り立っているという点が秀逸です。

ルナ2 エターナルブルー

ルナ2 エターナルブルー

 

 

ゲームブックでも、近年の作品にこういうものが出てきています。以前にも紹介した「剣竜亭とカラクリ迷宮」では、100パラグラフの中にちゃんと2周めと隠しエンドがあります。 

ゲームブック 剣竜亭とカラクリ迷宮 FT書房

ゲームブック 剣竜亭とカラクリ迷宮 FT書房

 

 

ちなみに現在執筆中の新作も、ノーマルエンドで物語は完全に解決を迎えますが、やりこみ読者のために高難度の隠しエンディングを用意しています。

 

さて、ここまで紹介しておいて、実は私は松友健氏の作品、未読なんですよねー。マルチエンディングを語るには避けて通れないハズなのですが。。。「魔人竜生誕」、早急に脱積ん読を図ります。

魔人竜生誕 (幻想迷宮ゲームブック)

魔人竜生誕 (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

今回はマルチエンディングについてでした。ではまた。