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ゲームブック「くたばれパラドクス」レビュー

こんにちわ、ちゃなです。

ゲームブック界の鬼神、梧桐重吾氏の新作が届きました!

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くたばれパラドクス

氏はFT新聞に掲載された「農魔導士ほんとの冒険」で鮮烈なデビューを飾り、絶品「パラグラフジャンプを超えて」で一世を風靡した作家さんです。ツイッター上で仕掛けた脱出ゲーム「月の集え、哭け蒼く」も人気を博しました。

氏がBooth上に店舗を開いたことにより、いくつかの作品が今からでも入手できるようになりました。

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本作「くたばれパラドクス」はそんな梧桐重吾氏の最新作にして初めての紙本です。

限定100部なので、既に売り切れてるかも……?

買い逃した方もPDF版はBoothから購入できるのでご安心を。ただし後述のボーナストラックは入手できません。

 

さてこの「くたばれパラドクス」、54パラグラフの短編となっています。

しかし氏の作風を知る者なら、パラグラフ数だけで判断できるはずがないのはご存知ですよね。。

本が届いたので早速プレイしてみました。

そして……読了しました!

 

いやあすごかった!(作家のくせに語彙力w

 

まあ、ネタバレ禁止ということなので、深くは語りませんとも。

しかしエッセンスと言えば、次の三点。

 

(1)小説への挑戦

氏の既作品も、ギミックばかりが注目されますが、文学性が低かったわけではありません。

しかし、本作はとりわけ、氏が小説としての完成度にこだわった様子がうかがわれました。

主人公の心情、というよりは置かれている状況に対する分析が、細やかに、そして主人公らしいメタファーを使って描かれていて、読めば読むほどに特異な認知特性を持つ主人公にシンクロしていきます。

筆で勝負している作者の心意気が伝わってきました。

 

(2)パラドクスを超えて

「農魔導士」も「パラ超え」も、数学やらメタフィクションやら、様々なジャンル、とりわけ理数系のギミックを取り入れて深みを生み出していましたが、本作もその傾向は踏襲しています。テーマとして採用されたのは論理学。表題通りとあるパラドクスが出てきます。

私も以前FT新聞に投稿させていただいた「七百万人のFT」で帽子の問題を取り上げましたが、論理学とゲームブックって相性がいいんですよね。

もちろん本作はただ適当にパラドクスを詰め込んだわけではありません。

とある有名なテーマが、主人公の深い悩みのメタファーとなっていて、その苦悩に抗うさまがゲームブック内の謎解きで表現されているのです。

 

(3)悦ばしきパラグラフジャンプ

パラグラフジャンプが頻用されるのも氏の作品の特徴ですが、本作は特に顕著です。パラグラフ1からの飛び先すら明示されていません。

パラグラフジャンプって、要所でスパイス的に使うのが基本なんですよ。あまり頻用すると驚きが薄れて面倒くささが先に立ってしまう。

しかし氏はそんなデメリットをおそれることなく、がんがん読者に謎解きを求めてきます。

初見ではわからなかったのですが、これには二つの意味がありました。

一つは、各々のパラグラフジャンプに必要となる「数字」に、いちいち意味があること。

読者として、それらの数字を覚えて活用することが、主人公の心情や情景描写を理解することにつながっているのです。

この没入感はすごい。

本作は是非、メモを取らずに読み進めることをお勧めします。

数字を忘れてしまったら、その場にとどまりつつ、記憶(読んだページ)をまさぐって思い出してください。

飛び先が分かることには、より目の前の情景がビビットに浮かんでいることでしょう。

そしてもう一つの意味については……読めばわかります。

(この手法は私もよく使います……というのがヒントになるような人は、最初からわかってそうだなあ。。)

 

まだまだ語りたいギミックはありますが、この辺で止めておきましょう。「最後のウィザードリー」とも称されるシナリオ「欠けた大地」を彷彿とさせる展開……といってわかる人は……誰もいまい。。

 

本書には表題作のほかにボーナストラックとして「悦ばしき匣」も同時収録。上の写真ではみ出してるプラスチック板はそちらに使用するものだそうです。私は未読ですが、歯ごたえがありそうですよ……!

 

……というか、この本、装丁がめっちゃ美しいですね。

同人誌はもとより紙の本自体殆ど買わなくなっていた私としては、大きな衝撃を受けました。

 

「悦ばしき匣」はさすがにメモなしでは無理そうなので、後日マッピングして挑んでみます。