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「我らが王の身罷りて」テキストセッション記

こんにちわ、ちゃなです。

今話題沸騰中のナラティブ系TRPG「我らが王の身罷りて」をテキストセッションで体験しました!

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我らが王の身罷りて

 

「我らが王の身罷りて」は原題をThe King is Deadと言い、ヴィンセント・ベイカー作のインディーズTRPGです。ハロウ・ヒルさんから邦訳版が販売中です。

harrowhill.rdy.jp

ナラティブTRPGの詳細な説明は省きますが、本作を一言で言うと「ゲームオブスローンズ」の世界を2~3時間で体験できるという素敵なシステム。プレイヤーは各々王位継承権を持つ家系の人物を演じ、順々にイベントを選んで話をつなげていきます。判定にはトランプを用いますが、数字の強弱よりも語りによって紡がれるストーリーラインが重視されます。

今回、朱里さんにゲームマスターを務めていただき、プレイヤー5人で三夜に渡りテキストセッションを行いました!

(本作はGMなしでプレイ可能ですが、朱里さんのお陰でスムーズに華やかに進行することができました。本当にありがとうございます)

出来上がったストーリーラインは本当に素晴らしく……プレイヤーの皆さんのキャラづくりや演技、そして相互に展開を読みあい補完し合いながら一つの物語を作っていくという過程を心ゆくまで堪能しました。

 

ここでそのストーリーラインを紹介しちゃいます。

本作と同卓者の皆さんの魅力が少しでも伝われば幸いです。

 

登場人物

ディルストーン家の騎士:三代に渡り王を輩出してきた家系の若き騎士。

オーキ家の聖女:代々王家を支える立場の家に生まれた庶子

サンドリエイル家の美女:かつて王を輩出していた家系に連なる公女。

アンタイアー家の勇士:古の氏族を統べる荒ぶる勇者。

リュネスト家の策士:王位継承を主張するため隣国レシーから派遣された庶子

 

プロローグ

バンテイブの王が後継者を指名せず身罷ったことで王国に動乱が訪れる。ディルストーン家の嫡男はあまりに幼く、オーキ家は彼を支えるか否かを逡巡する。サンドリエイル家とアンタイアー家は今こそ王位奪還の好機と考える。大国レシーに連なるリュネスト家はバンテイブをレシーの属国にすべく画策する。

 

陰謀と動員(アンタイアーの選択)

ディスストーン家はオーキ家の重鎮である聖女の叔父を投獄して処刑する。理不尽な仕打ちに戸惑う聖女をディルストーン家の騎士は慰めることしかできず、アンタイアーの勇士はそれを公然と非難しディルストーンへの敵意を露わにする。

 

再会(アンタイアーの選択)

アンタイアー家の勇士とリュネスト家の策士は秘密裏に会合する。ディルストーン家を憎む勇士は策士に対していつまでも落とし子の立場に甘んじるのかと挑発して共闘を持ちかける。用心深い策士は同調しつつも当面は協調すると答えるに留める。

 

食事の場での会話(リュネストの選択)

リュネスト家の策士はサンドリエイル家の出方を探るため美女を食事に誘う。聖女も同じ場に招かれる。美女は策士に対し王位争いの本音を問うが、策士はなかなか手の内を明かさない。一方聖女は叔父の処刑がレシーの差し金ではないかと策士に詰め寄る。策士は否定しつつ聖女の態度をやんわりとたしなめる。続いて策士はディルストーン家の幼き世継ぎについて見解を美女に問うが、美女は意味深な言葉を残して会食を終える。

 

快活な論争(オーキの選択)

声高に王位継承を主張するアンタイアー家の勇士に対し、オーキ家の聖女は公務の後で論戦を持ちかける。伝統と安定を重んじる聖女に対し、勇士は力による支配を主張して譲らず、遂に剣を抜く。

 

剣による決闘(サンドリエイルの選択)

退くに退けない聖女は決闘の申し入れを受けて立つが、実力差は明らかでたちまち勇士に追い詰められる。それでもなおディルストーン家に忠誠を誓う聖女の態度に感じ入り、勇士は止めを刺さずにその場を去る。

 

追跡劇(ディルストーンの選択)

勇士が聖女に剣を向けたことを知ったディルストーン家の騎士は激高して勇士の後を追う。慣れた土地での攻防だったが、決闘の疲れが災いして遂に勇士は追いつかれる。そこで勇士は、聖女の叔父の処刑は自分が仕掛けた陰謀だと明かしつつ、実行したのはあくまでディルストーン家だと言い放つ。ディルストーンの騎士は思い悩み、勇士を捕縛することなく帰途に着く。

 

快活な論争(サンドリエイルの選択)

サンドリエイル家の美女は、オーキ家の聖女に対する煮え切らない態度について、ディルストーン家の騎士をサロンで問い詰める。聖女に対する好意の有無を問われ、騎士として未熟な自分はあくまで義憤に駆られて行動しただけだと釈明する騎士。美女は騎士に対し、自嘲を続けることなく愛と勇気を示すよう叱咤する。

 

戴冠式(クライマックス)

ディルストーン家とオーキ家は共闘するが力及ばず、アンタイアー家の勇士が王座をものにする。一方、サンドリエイル家は王国を牛耳るほどの力を蓄えていた。アンタイアー家の勇士は戴冠式に際して仇敵であるディルストーン家の騎士の処刑を宣告し、その執行をオーキ家の聖女に命じる。覚悟を決め斧を構える聖女。だが聖女は勇士を近くに誘い込み、俄に刃先を勇士に向ける。そこでサンドリエイル家の美女が勇士の背中を押し、勇士は聖女の斧で致命傷を負う。その有様を見てリュネストの策士はそそくさと場を離れる。自分が力で抑えねば内乱が起きると叫ぶ勇士に聖女は泣きながら頷く。そして聖女は囚われの騎士に口づけして自害しようとするが、美女に縛めを解かれた騎士に止められる。騎士は聖女を守り抜くと誓い、二人はその場を逃れる。後には血塗れの玉座に腰掛けて微笑むサンドリエイル家の美女ただ一人が残される。

 

エピローグ

王は暗殺され、バンテイブは内乱に陥る。アンタイアー家の勇士の墓には一輪の花が捧げられている。その世継ぎは王位を主張してディルストーン家の長子と争いを繰り広げるが、国の実権を握るサンドリエイル家の美女は意にも介さない。レシーは双方に軍事援助することでバンテイブの瓦解を目論み、リュネスト家の策士は難しい立場のままサンドリエイル家の美女と手紙のやりとりを続ける。オーキ家の長子もまた野望を燃やしてサンドリエイル家に接近する。騎士と聖女の行方はようとして知れないが、1年後、一輪の花を持った聖女の姿を見た者がいたという。

 

いかがだったでしょうか?

ちょっと解説すると、このストーリーラインは、各プレイヤーの発想をつなげて作られた部分と、システムによって選択された部分が見事に調和しているんです。

例えばオーキの選択した「快活な論争」の最中に、サンドリエイルが「剣による決闘」か「試練裁判」を行うようシステム上で要求したことで、アンタイアーはオーキに決闘を申し入れました。

ちなみに決闘の流れと結末は両プレイヤーの選択と演出の産物で、トランプ判定は一切行われていません(展開によってはトランプ勝負になることもあります)。

その一方、追跡劇がディルストーンの勝利に終わったのは純粋にトランプ判定の結果です(アンタイアーが逃げ切る可能性も十分にありました)。

アンタイアーが先の陰謀を自分の差し金と暴露したのはアンタイアーの発案によるものです(システム的には、最初の陰謀の黒幕がアンタイアーだという設定はありません)。この設定が加わったことでディルストーンとオーキのその後の方向性が決定づけられていきます。

アンタイアー家が最強のカードを所持して王位を得た一方、スートを揃えきったサンドリエイル家は実効支配権を得ました。ここは偶然の作用も大きいです。

戴冠式でオーキにディルストーンを処刑させようとしたのもアンタイアーの演出で、システムの関与はありません。そこでオーキは、陰謀のことを伝え聞いたことにして反旗を翻すのですが、この反撃が成功したのは、両プレイヤーの合意と、王の暗殺を意味するトランプが開示されていたこと、いわばナラティブとシステムとの融合による結果なのでした。巻き添えを避けるため早々に退席したリュネストの行動は、彼の「用心深すぎる」特性と、先に協調はしても共闘の確約はしないと言った発言を受けてのものでしょうね。

このように、各々のプレイヤーは互いの発言や行動の内容を受けて、自分の行動を決定することで、ストーリーをつなげていきます。いわば場の空気を読みながら全員で物語を編んでいくことになるので、誰一人欠けてもストーリーラインは完成しません。

その一方、戦争や追跡などのアクション要素ではトランプ判定が重要になります。適度に判定が挟まることでゲーム性が上がり、王位を狙うためどうやって強いトランプを引くか、相手のトランプを減らすためにはどう仕掛けるかといった戦略性も確保されています。

 

なんて素敵なシステムなんでしょう!

一見荒削りで大雑把に見えるのですが、実際にプレイしてみると、なかなかどうして抜群のバランスに仕上がっていることがわかりました。

 

以上、「我らが王の身罷りて」のプレイレポートをお届けしました。

とっても面白かったです!テキストセッションは時間がかかる一方、熟慮して台詞や行動を決められる分、叙情感に溢れたプレイができました。

同卓者の皆様と、原作者のベイカー夫妻、訳者のふぇるさんにもう一度深い感謝を!