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「魔力の杖」チャート解析 その1

どうも、ちゃなです。

モーリス・サイモン氏の「魔法の王国」三部作、買っちゃいました。

以前2巻まで買ったものの完結編を読まないまま捨ててしまったので、ずっと心残りだったんですよねー。

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本作を一言で説明すると、AD&Dのシステムと世界観に準じた、大魔術師の息子カー・デリングの成長と冒険の物語です。

第1巻「魔力の杖」では、主人公はまだ少年で、本編で初めて魔術を習います。そして父が創設した神秘科学アカデミー内に隠された「ブーコッドの錫杖」を手に入れることになります。

第2巻「魔術師の宝冠」、第3巻「魔域の対決」では成長した主人公が大いなる悪と戦うことになるのですが、実はまだ攻略未了なので、またの機会に。

魔法の王国〈1〉魔力の杖 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

魔法の王国〈1〉魔力の杖 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

 

 

「魔力の杖」の魅力は、なんと言っても主人公が一つ一つ魔法を習得していく過程にあります。

例えば、「眠り」の呪文をかけるためには、相手に砂をかけて「しーっ!」と言わねばなりません。かけられた側は自分に客観的になることで術を回避することができます。

「魔法解読」を習得するためには、一人ずつ異なるコマンドワードを探り当てなければならないのですが、その探し方のアプローチがまた、成功判定の成否によって変わってきます。

このように、多くのファンタジーゲームでは省略されがちな魔法取得の描写がとてもリアルで、まるで読者自身が魔術の勉強をしているような気持ちにさせてくれるのです。

ハリー・ポッターよりも本作の方が遙かに先ですからね!

 

本作はそういった文学的な描写に力を割いていて、パラグラフ数に比べてとても文章量が多いです。

危険な町並みや荘厳なアカデミー、一癖あるキャラクター達も生き生きと描かれています。

 

その一方で、本作はゲームとしてみると、かなりこなれていない部分が目立ちます。

 

まず、主人公は冒険に先立ち、生命点と三種類の技術点を決めるのですが、このうち生命点はまったく意味を成していません。

生命点が減る箇所はいくつかありますが、全部引き当てても主人公が死ぬことはないのです。

おそらくシステムをシリーズで共通にしたためでしょう。しかし、魔術師である主人公は白兵戦など行いませんし、戦闘ルールも存在しないのです。「ソーサリー!」のように、魔法を使ううちにどんどん体力を削られるということもありません。

 

三種類の技術点は、「判断力」「機敏度」「沈着度」に計5点を振り分ける形式になっています。これらはたびたび成功判定に用いられるので、初期設定は非常に重要です。

ルール説明でも強調されているように、判断力が主人公にとって最も重要です。迷わず判断力に3点振っておくのが正解です。

この技術点の扱いにもちょっと問題があります。技術点は展開によって大きく上下するのですが、判定に失敗すると技術点を減らされることが多いのです。ただでさえ低い技術点がさらに減らされると、次の判定は一層難しくなってしまいます。特に判断力が減ってしまうパラグラフを踏むと、冒険はかなり厳しくなります。

 

そして、本作の最大の欠点は、実は魔法です。

本作では主人公は全部で16種類もの魔法を習得するチャンスがあります。もっとも、すべてを習得することはできません。どんなルートをたどっても覚えられる魔法は最大3種類です。

しかも、せっかく覚えた魔法を使う機会が、ほぼまったくないのです。

 

種明かししてしまうと、16種類の魔法の中で使用する機会があるのは、「皆殺し」「炎の手」「羽毛落下」「壁登り」「明かり」「眠り」の6種類だけです。他の10種類は一度も選択肢に出てきません。

しかもこのうち、有効活用したと言えるのは「羽毛落下」「壁登り」「眠り」だけなのです。これらはクリアに必須ではありませんが、用いるとデッドエンドを回避しやすくなります。

「皆殺し」と「炎の手」は、選ぶと即死します。「明かり」は使っても使わなくても展開は変わりません。

 

たった244パラグラフの作品で、しかも魔法を習得する過程に重きを置いた構成では、魔法を使う機会を増やすにも限界があるでしょう。しかし、せっかく苦労して(時には死を覚悟して)習得した魔法がほとんど使えないというのは、主人公にしても読者にしても、あまりにも口惜しいものがあります。

 

……少々手厳しい解説になりましたが、気を取り直してチャートを見てみましょう。

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黄色いパラグラフはデッドエンド、青いパラグラフは魔法を習得するシーン、そして赤いパラグラフが、魔法を使う場面です。

……ね?魔法の習得に比べて活用するシーンがあまりにも少ないんですよ。

 

さて、本作ではパラグラフ構成にひとつ大きな特徴があります。途中でルートが大きく2つに分かれているのが見えるでしょうか?

実は、パラグラフ159からの選択で物語の展開が大きく2通りに分かれるのです。ひとつは、ハーフエルフのゼインに師事して魔術を学ぶ展開、もう一つは、主人公の叔父ベルドンの治めるアカデミーに入学するパターンです。

 

つまり本作は、物語の最大のポイントである「魔法の習得」というプロセスを2パターン用意しているのです。このようにメインプロットが複数に分かれるゲームブック作品は多くありません。

ちなみにネタバレになりますが、ベルドンは主人公の父の敵です。アカデミーに入学するということは、疑惑の渦中にある叔父の本拠地で勉強することになり、主人公にとっては様々な危険を背負い込むことになります。その展開を反映して、ベルドンルートの方が攻略の難易度は高くなっています。

他方では、アカデミーでの授業や意地悪な初級者長アルノとの確執など、ベルドンルートの方が面白いイベントが目白押しです。アルノは次巻以降でも主人公の宿敵として立ちはだかるのですが、ゼインルートだとアルノに会うこともなくエンディングに到達してしまいます。明らかに、ベルドンルートの方が正規ルートだと言っていいでしょう。ゼインルートはイージーモードとでも言うべきでしょうか?

(追記:……と思ったら、続編「魔術師の宝冠」では、主人公はゼインから魔法を学んだことになっていました。)

 

次回はチャートをより細かく見ていきます。