ちゃなのゲームブック

ゲームブック作家「ちゃな」のブログです。Amazonキンドルで「デレクの選んだ魔法」等販売中!

ゲームブックにおけるマルチエンディング

どうも、ちゃなです。

(今回は紹介作品の重大なネタバレを含みますのでご注意ください)

 

マルチエンディングというのは、文字通り物語の終わり方が複数あるゲームシステムのことを言います。

 

多くのソロゲームでは、作者とプレーヤーの知恵比べ的な要素があって、障害を乗り越えたプレーヤーへのご褒美として、素敵なエンディングが待っています。

ただ、それまでのプレーヤーの選択を問わず最後は画一的なエンディングを迎えるというのは、いささか味気ないという気もしますよね。そこで、それまでの行動過程によってエンディングが変わるようにするわけです。

 

コンピュータゲームでは、多くの作品でマルチエンディングが採用されています。特にテキスト型のアドベンチャーゲームでは、プレーヤーの選択を楽しむというコンセプトがあるため、マルチエンディングが馴染みやすいです。「弟切草」「かまいたちの夜」シリーズなんかが有名ですね。

 

ゲームブックも、コンピュータのアドベンチャーゲームに近いので、マルチエンディングには非常に馴染みが深いです。

というか、バッドエンドも含めると殆どのゲームブックがマルチエンディングを採用していると言えます。

 

マルチエンディングの構造を分類すると、だいたい下記の3パターンに分かれます。

 

(1)無数のバッドエンドと、一つの真エンド

殆どのゲームブックや、一般的なテキストアドベンチャーゲームがこれに該当します。

ゲームブックだと、最終パラグラフがエンディングになっていて、それ以外のエンドパラグラフ(飛び先の示されていないパラグラフ)はバッドエンド扱いという作品が多いですね。

もっとも作風によっては、真エンドよりもベターな結末を迎える展開もあり得ます。

 

古い作品ですが、「ゴーストタワーの魂の石」では、主人公は盗賊と修道士と3人で迷宮に挑むのですが、途中で仲間に裏切り者がいるという疑惑が出てきます。

そこで本作では、2人を見捨てて一人きりでゴーストタワーを脱出した場合のみ、真エンドにたどり着けるようになっています。盗賊か修道士のいずれかとともに生還する結末もあるのですが、本作ではそれらはバッドエンド扱いになっています。なお3人揃って生還する方法はありません。

実際には裏切り者は存在しないようです。孤独と疑心暗鬼、そして仲間を見捨てた贖罪意識を余韻として残したいという、作者の思想が色濃く現れた作品だといえるでしょう。

ゴーストタワーの魂の石 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

ゴーストタワーの魂の石 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

 

 

(2)複数の等価な真エンド

幾つかのハッピーエンドがあり、いずれがベストかは読者に委ねられているパターンです。

作者が特定のエンディングを贔屓していないことを示すため、ゲームブックではあえて最終パラグラフをエンドパラグラフにしないという技法を用いることもあります。

スティーブ・ジャクソン氏の作風ですね。氏はファイティングファンタジーシリーズで「サソリ沼の迷路」「深海の悪魔」「ロボット・コマンドゥ」の三作を出版しています。

「サソリ沼の迷路」では、主人公は最初に依頼人を善・悪・中立の3人から選びます。そして沼地の冒険を終えて成果を報告するところでエンディングを迎えます。善の魔法使いや中立の商人にはまっとうな報告を終えてグッドエンドになりますが、悪の魔法使いに対しては、悪事の片棒を担いで報酬をもらうパターンと、依頼人を裏切って倒してしまうパターンがあります。いずれが主人公らしいかを決めるのは読者の仕事です。

 

「ロボット・コマンドゥ」では、主人公は謎の眠り病から街を救うことになります。病をはやらせた元凶をロボットで制圧するか、一対一の決闘で打ち破るか、病のワクチンを散布して街を復活させるか、三通りの解決法があります。

どの道を選んでも結末は一緒なので、マルチエンディングというよりはマルチプロットと言えるかもしれません。 

ロボット コマンドゥ?ファイティング・ファンタジー (22)

ロボット コマンドゥ?ファイティング・ファンタジー (22)

 

 

私の「ネイキッドサバイバー」も小粒ながらマルチプロットを採用しています。エンドパラグラフは一つだけですが、ラスボスの陰謀を暴くための道筋は複数用意されています。中にはバッドエンドっぽいものもありますが。。。

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドサバイバー (ちゃなのゲームブック)

 

 

このパターンは繰り返しプレイを前提として設計されているものですので、コンピュータゲームに馴染みが深いです。アドベンチャーゲームのみならず、シミュレーションゲームにもしばしば採用されています。「プリンセスメーカー」シリーズや「アトリエ」シリーズが代表的ですね。ただ、近年ではプレーヤーのやりこみ意欲を煽るため、難易度の高いエンディングを真エンドとして定義しているものが多いです。

 

竜の血を継ぐ者」のエンディング構成はひとひねりされています。事件の真相に気づいたか否か、及び主人公が脱出できたか否かによって、4パターンのエンディングに分かれるのです。こう書くと、真相に気づいて脱出というのが真エンドのように思われるかもしれません。でも、他の形態のエンディングの方が文学的に遥かに美しいんです。主人公にとって何が本当の幸せなのか、考えされられます。 

竜の血を継ぐ者

竜の血を継ぐ者

 

 

鈴木直人氏も、「魔界の滅亡」のエンディングは、ドルアーガを倒すも脱出に失敗して行方不明になるエンディングの方が好きだと語っていました。

魔界の滅亡 ドルアーガの塔 (幻想迷宮ゲームブック)

魔界の滅亡 ドルアーガの塔 (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

(3)ノーマルエンドに加えて真エンドがある

こちらは最近のコンピュータロールプレイングゲームのはやりです。ノーマルのエンディングで物語は完結するものの、主に2周めのやり込み用に、よりハッピーな真エンドを用意しているというものです。マルチエンディングというよりは、追加シナリオといったほうが良いかもしれません。

 

例えば「ドラゴンクエスト4」のリメイク作では、通常のエンディングではラスボスを倒して終わりですが、追加シナリオではラスボスの裏事情が描かれており、主人公と敵対する理由を解消することによってラスボスとともに真の黒幕に挑むことができます。

ドラゴンクエストIV 導かれし者たち

ドラゴンクエストIV 導かれし者たち

 

ただ、この形態の弱点は、真エンドを見てしまうと、ノーマルのエンディングがバッドエンドみたいに思えてしまうということです。旧作を毀損されたと思う人もいるようです。

 

そこでこのパターンでちゃなが最高傑作の一つに挙げておきたいのが、「ルナ2 エターナルブルー」のリメイク作です。本編ではラスボスを打ち倒した後、役目を終えたヒロインが月に帰ってしまい、主人公はいつか再会することを誓って終わります。これだけで物語は完結しているのですが、追加シナリオでは主人公が実際にヒロインを追いかけて月に向かうことができます。そして眠りから覚めたヒロインと月世界の復活を見届けるという真エンドに到達します。本作はノーマルエンドも真エンドも相手の良さを殺さず完全に成り立っているという点が秀逸です。

ルナ2 エターナルブルー

ルナ2 エターナルブルー

 

 

ゲームブックでも、近年の作品にこういうものが出てきています。以前にも紹介した「剣竜亭とカラクリ迷宮」では、100パラグラフの中にちゃんと2周めと隠しエンドがあります。 

ゲームブック 剣竜亭とカラクリ迷宮 FT書房

ゲームブック 剣竜亭とカラクリ迷宮 FT書房

 

 

ちなみに現在執筆中の新作も、ノーマルエンドで物語は完全に解決を迎えますが、やりこみ読者のために高難度の隠しエンディングを用意しています。

 

さて、ここまで紹介しておいて、実は私は松友健氏の作品、未読なんですよねー。マルチエンディングを語るには避けて通れないハズなのですが。。。「魔人竜生誕」、早急に脱積ん読を図ります。

魔人竜生誕 (幻想迷宮ゲームブック)

魔人竜生誕 (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

今回はマルチエンディングについてでした。ではまた。

「魔域の対決」チャート解析 その2

前回の続きです。

バグだらけの問題作「魔域の対決」。総パラグラフ数212と三部作中最短なのですが、ストーリーはどうでしょうか?

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主人公はすっかり魔法にうつつを抜かしていて、いきなりダーリスを魔法で呼び戻そうとしたり、従者ラファエルに魔法の触媒を探しに行かせたり、さらには自分の意見を押し通そうと仲間達に「暗示」を使ってみたりと、やりたい放題です。

 

パラグラフ9で仲間に既に会っている場合の飛び先は、157ではなくおそらく116です。

 

ラファエルを早めに使いにやっておかないと、触媒探しがうまくいかず、大魔法「送還」を使うことができなくなります。もっとも「送還」を実際に使う局面は出てこないのが、シリーズのお約束です。

 

主人公はアルノのもとに攻め込むか、大魔術師のローブを奪取しにブーコッドの寺院の遺跡に向かうかで、その後の展開が大きく変わります。

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セイブンを攻めるのは結構無謀で、「飛翔」の術に成功すると深入りして墜落したり、「弓矢封じ」を発動させていないと狙われてハリネズミにされたりと、危険がいっぱいです。

 

最終的にはブーコッドの寺院の遺跡に向かうことになります。そこでアルノとの対決が待ち受けていると思いきや……

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前作で登場したマリードの導きでブーコッドの寺院の遺跡に到着した主人公ですが、ここで望むなら秘密の入口を探すことができます。入口を見つけずに「瞬間移動」で中にテレポートしようものなら、成功判定が3段階に分かれているにも関わらず、必ず失敗して死ぬことになります。大魔法「失敗なき瞬間移動」もその名に反して大失敗します。

 

パラグラフ143で寺院の門を破ろうとした場合の飛び先は25ではありません。ストーリーがめちゃくちゃになります。おそらく23が正しい飛び先です。

 

アルノと鉢合わせて魔法対決になった場合、唯一役に立つのは「眠り」です。他の魔法ではアルノに後の先を取られて敗北します。スピードファクターって大事ですね。アルノに殺されずに済んでも、その先はデッドエンドになっています。

 

ブーコッドの寺院の遺跡に入った主人公は、凶悪な魔物であるタラスキューを目にします。奴に一人で勝つことはできません。アルノと一時休戦して二人で「限られた願い」をぶつけるか、さもなくばアルノが戦っている間に逃げおおせることです。

なお、前者が正史のように思えますが、この方法ではクリアが非常に困難になります。

 

タラスキューを退けた主人公は、ゼインと合流してエアドリーの冠を譲り受けます。ここで沈着度16の判定に失敗するとデッドエンドですが、初期値が低くても5割以上は成功するので問題ないでしょう。そこでちゃっかりダーリスに告白して、最後の戦いに挑みます。

 

主人公は遂に大魔術師のローブをまとうリッチの前に到達します。実はこの場面に来るだけなら「瞬間移動」を使えば良いのですが、そうやってパラグラフ99に来た場合は、何をやっても殺されます。

 

ここでタラスキューが死んでいる場合は、アルノとの精神対決になります。

問題はこのアルノが異常に強いこと。判断力判定34というのは、キャラメイクで全振りしてかつ魔法をひとつも準備していなくても、サイコロ2つで11以上を出す必要があります。失敗すると生命点1を失って再チャレンジです。これはほとんど不可能といっていい難題で、いくら何でもバランスが悪いかなと思います。

 

逆にアルノを見殺しにしてタラスキューが生きている場合、パラグラフ192からの飛び先がいきなりエンディングになっています。それらしい正しい飛び先はパラグラフ180で、タラスキューがアルノごと飲み込んだロルスの冠と主人公のエアドリーの冠が反応する描写が入り、見事に敵を撃退します。

 

こうして主人公は大魔術師のローブを手に入れて、物語は終焉を迎えるのです。

 

いかがだったでしょうか?

私は正直、三部作の大団円にしてはちょっと期待外れでした。エラッタは論外として、ストーリーも少々広がりに欠け、父の言葉通りにアルノと協力する方が勝利が遠のいたり、瞬間移動のパラグラフが異常にたくさんあってみんな飛び先が同じだったりと、アルゴリズム的にも今ひとつ納得いかないところが多かったです。三作品中最も魔法を使う機会が多いのですが、その魔法もごく一部の必須のものを除いてはあまり役に立たず、面白みがありません。

結局、「魔法の王国」シリーズで一番面白かったのは、第一作「魔力の杖」でした。こういうことってよくありますよね。私のネイキッドシリーズも第一弾が一番売れています。。。

ネイキッドウォリアー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドウォリアー (ちゃなのゲームブック)

 

 

ともあれ、AD&Dのシステムと世界観を600あまりのパラグラフでゲームブックに書き起こしたのは、本シリーズが随一です。完成度の問題から名作のお墨付きは押せませんが、記念碑的作品といって良いでしょう。

「魔域の対決」チャート解析 その1

どうも、ちゃなです。

フローチャートを作成してゲームブックの構造を解析するこのシリーズ(?)も、第8回になりました。

 

今回は、「魔域の対決」です。

「魔法の王国」シリーズ三部作の完結編になります。

魔法の王国〈3〉魔域の対決 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)
 

本作は販売部数が少ないのか、中古でも他の二作品と比べて高値がついています。

私は以前「魔力の杖」と「魔術師の宝冠」はプレイしていたのですが、本作はちらっと立ち読みしたくらいでほとんどノータッチでした。なので今回は初挑戦となりました。

 

ストーリーは前作「魔術師の宝冠」の5年ほど後になります。

シーゲート島を悪の魔術師アルノの手から守った主人公カー・デリングは、父の残した神秘科学アカデミーの校長として過ごす傍ら、アルノとの対決に備えて禁断の呪文研究に勤しんでいました。アルノは前作で出てきた悪魔の王子パズズの力を借りて全土を制圧しようとしているのに対し、主人公は瞬間移動の実験に失敗して腰を痛めたりと満身創痍になっていて、見通しは深刻です。本作の物語は、失われた最後の秘宝である大魔術師のローブを水晶玉で探している主人公のところに、ガールフレンド(?)のダーリスが大僧正オーラムの訃報を持ってくるところから始まります。

 

本作では、読者が管理するパラメータはひとつ減って、判断力、沈着度、生命点の3種類になります。体力的に衰えた主人公にとって、もはや機敏度はどうでも良くなったんですね。

判断力16と沈着度10に9点のボーナスポイントを配分するのですが、冒険記録用紙ではエラッタで7点と書かれています。判断力が沈着度を上回ること、沈着度に最低2点割り振ることが決まりなので、「判断力23・沈着度12」から「判断力18・沈着度17」までのいずれかになります。攻略としては、沈着度の判定は概ね容易なので、ここでは判断力を23まで上げておくのが正解です。

生命点は4点にサイコロ3つ分(ただし5回振って大きい方から3つ)を加えます。ちなみに期待値は17.6になります。本作はこれまでと異なり、生命点が減る局面が多いので、このパラメータは結構重要です。

 

そして、シリーズ最大の特徴である「魔法」ですが、本作では主人公は大魔術師であり、いくつかの簡単な魔法は「永遠化」させています。物語の途中で、継続的に発動させておく魔法を選ぶチャンスがあり、必要な局面で魔法が発動しているかどうかによって展開が変わってきます。他方で、魔法を発動させておくと、判断力が一時的に減ってしまうので、何でもかんでも発動というわけにはいきません。この辺りの取捨選択が本作の肝になっています。

 

では、いよいよフローチャートを見てみましょう。

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カラフルですね。

緑がエンディングで黄色がバッドエンド。

青が記憶している魔法をかける場面、赤が発動させている魔法が役に立つ場面、紫が発動させる魔法を選ぶ場面になります。

青いパラグラフは、秘密の入口を見つけたかどうかのフラグ処理です。必ずしも踏まなくてもクリアは可能です。

 

そして、本作の最大の問題点は、薄緑のパラグラフ。

これ、飛び先がエラッタなんですよね、多分。

お示ししたチャートは、私の推測でエラッタを修正したものになっています。

原作通りだと、無茶苦茶な飛び方をしていたり、ストーリーが全然つじつまが合わなかったりします。

さらに、下の方にあるパラグラフ91は、どこからも飛べないし、飛び先も3つともまったく筋が通っていません。

 

要するに、本作はバグだらけなんです。

コンピュータゲームでもたまにそういう作品がありますが、当時のゲームブックでは後からパッチを当てることもできません。

もしかしたら正誤対照表が挟まっていたのかもしれません。ざっと探した限りでは、英語でもエラッタを公開しているページは見つかりませんでした。まあ1987年の作品ですから致し方ありませんね。

※2020/1/8追記 https://gamebooks.org/Item/140/Showで、エラッタについて解説されていますが、いくつかのエラッタについては修正方法がわからないままになっています。富士見ドラゴンブックの邦訳ではいくつかのエラッタが修正済みのようです。

 

それにしても、このエラッタの数はちょっといただけません。当時購入していたら、怒り心頭だったことでしょう。

 

モチベーションが下がってしまったかもしれませんが……次回に続きます。

「魔術師の宝冠」チャート解析 その2

それでは「魔術師の宝冠」フローチャートを細かく見ていきましょう。

 

物語は主人公と吟遊詩人ダーリスがマンティコアの針を採取しようとしている場面から始まります。

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ダーリスの作戦通りに動けば、針を入手できるチャンスがあります。ただし問題は、ここで針を入手してもストーリー上まったく役に立ちません。

逆に「魔法の矢」はここで使ってしまっても問題ありません。ただし、判定に成功するとマンティコアを殺してしまい、針を採取できなくなります。(マンティコアってマジックミサイル数発で落ちるほど弱かったかしら……?)

 

森に帰ると、前作での宿敵アルノがセイブンの聖騎士団を掌握したというニュースが飛び込んできます。

ブーコッドの錫杖を用いてアルノに対峙するかどうか、主人公は悩みます。錫杖を使えばアルノの魔法を無力化できるかもしれません。ただ、錫杖にかけられた防護の魔法は尽きかけていて、万一アルノに錫杖が渡ると最悪の結果になるおそれがあるのです。

というか、アルノがこんな宿敵になるなんて予想外でした。前作では、そこそこ腕は立つものの、ベルドンに気に入られて自分の実力をひけらかすだけの、典型的な小物に見えたんですけど。。イメージは「ハリー・ポッター」シリーズのドラコ・マルフォイですね。

ここで前作の師で会ったゼインがなぜか逆上して錫杖に触れてしまい、瀕死になってしまいます。ちょっと笑えない展開です。。。

主人公は旅に錫杖を持っていくか否かを決断することになります。重要な選択のように見えますが、どちらを選んでも、さほど大きな影響はありません。

 

パラグラフ121で、セイブンに向かうかシーゲート島に向かうかの選択があります。ここでシーゲート島を選ぶと、チャート上は一気に終盤に進みますが、結局詰むことになります。この序盤でのトラップはちょっと厳しいですね。

 

セイブンに向かう場合、道は三通りあります。街道を通るか、「黄色の沼」を通るか、それとも漁船で港に向かうかです。

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ここで「黄色の沼」は主人公の父である偉大な魔術師ランドールでさえも避けていたという警告が再三出ます。

しかし、正解は「黄色の沼」ルートです。「黄色い沼」に住むマリードから悪魔パズゼウスもしくは「魔術師の宝冠」についての情報を聞いておかないと、最後に詰むことになります。

 

船で港に向かった場合、海兵に襲われます。

「稲妻の一撃」や「火球爆発」で強引に突破するのが正解です。「眠り」や「炎の手」等の弱い魔術では勝てません。

調子によって大魔法である「他者変身」を使うと、とんでもないことになります。従者のラファエルをロック鳥に変身させる選択では、術が強すぎるとかえってコントロールが効かなくなったり、勝手にシーゲート島まで飛ばされてしまったりします。

 

街道や海ルートで進んでも、途中で「黄色の沼」に入る分岐があります。ここで沼に入らないと街道の騎士と対決することになります。色々な魔法を使うチャンスがありますが、既にバッドエンドが確定しています。

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沼に入った際に大魔法を使う機会があります。マンティコアの針を入手していれば、「魔力付与」を試すことができますが、結局失敗します。「他者変身」も使わない方が身のためです。「異界接触」に成功すればヒントが得られますが、大した情報ではなく、失敗すると即死します。

 

沼地の中で襲ってくるマリードの巨大な手に対して、毒の投げ矢を使ってはいけません。下手な魔法も命取りです。杖で殴りかかるか、弱い魔法で様子を見てみてください。

すると、マリードからアルノの力の源である悪魔パズゼウス、もしくは「魔術師の宝冠」についての情報を得ることができます(紫のパラグラフ56または128)。ここを通らないとエンディングにはたどり着けません。

 

パラグラフ100でセイブンの大聖堂の裏まで来ます。

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ここでは敵陣営で唯一の味方と言える聖騎士ガーンに出会います。友好的に振る舞えば沈着度が上昇します。本作では技術点が上がるチャンスは滅多にありません。

ブーコッドの錫杖を持ってきている場合、彼に預けるかどうかの選択があります。

 

その後、一行はアルノを討ちに大聖堂に侵入します。

しかしここでは結局パズズに勝てないので、実は侵入に失敗してしまった方が手っ取り早いです。パズズに錫杖は効かず、攻撃魔法を撃とうとするとアルノの「忘却」に潰されます。逃げる時にけちって「魔法の錠」を温存すると、やはり捕まって殺されます。

 

いよいよ終盤です。

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パラグラフ217では、大聖堂を脱出してガーンと合流する手前で敵の聖騎士に遭遇します。ここでは錫杖を持っていた方が有利です。

 

ガーンと合流した一行は、パズズを倒すための知恵を借りにシーゲート島のアカデミーを目指します。ここで彼に錫杖を預けていた場合は、取り戻すかどうかを選べます。しかし今度は錫杖を回収しない方が若干有利になります。

 

パラグラフ106では、パズゼウスか宝冠の話を聞いていたかどうかで強制分岐します。セイブンを経由せずシーゲート島に来た場合は、どこから上陸するかで同じ選択肢に分岐するので、このアルゴリズムはちょっと不思議ですね。

 

チャートはこれが最後です。

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「魔術師の宝冠」について知っていた場合、島の南から侵入することになります。そこで聖騎士を不意打ちしようとしている変な生き物こそ、ゼインの転生した姿なのです!あとは、みんなでエストラの元に赴き、父から託されたという「魔術師の宝冠」をゲットしてエンディングです。

しかし、セイブンを経由せずここに来た場合は、聖騎士と会話が成立せずに殺されてしまいます。

 

一方、デルマー経由でアカデミーを目指す場合、ノール達をやり過ごす必要があります。ここで沈着度の判定に失敗すると、錫杖を持っていた場合、魔法探知に引っかかって即死します。

デルマーでは前作で主人公の母を弔ってくれたウェンデルから宝冠の話を聞くことができます。ゼインの一族に会いに行くと、先ほどの聖騎士と変わり果てたゼインのシーンに合流して、エンディングに行けます。

初心貫徹でアカデミーを目指してはいけません。アカデミーに侵入すると閉じ込められてしまいます。唯一セットしておいた解錠の呪文を使い切ってしまったという展開です。一晩寝れば魔力が回復しそうなものですが……。

 

パラグラフ106の分岐で、マリードからパズゼウスか宝冠の情報を聞いていない場合も、フリートン経由でアカデミーを目指す道しか選べず、デッドエンドになります。

 

いかがだったでしょうか?

 

どこを経由してきたかで強制分岐するというアルゴリズムは、ちゃな的にはあまり好きではありません。展開に必然性がなく、地名を忘れてしまっている読者もいるでしょうから。パラグラフの圧縮効果もたかがしれています。

また、本作でも「生命点」の存在がまるで意味を成していません。

一方、技術点での成功判定は、失敗すると即死する展開が多い一方で、成否が何の影響もしない場合もあります。

前作に比べると魔法を使う機会は多いです。主人公がセットしている魔法はすべて本文中に登場します(羽毛落下は描写のみで、しかも失敗して即死ですが)。ただ、どこで使うか温存するかを悩む局面はあまりありません。おまけに大魔法がいずれもまったくの役立たずでほぼ地雷と化しています。まあこれは、AD&Dの設定に忠実とも言えますが。。。

 

個々のシーンの描写は相変わらず細かく、アルノがパズズを利用して聖騎士団を支配下に置いてしまう展開などはいかにもAD&Dっぽいですね。主人公の魔法は本作では和名で並んでいますが、「ファイアボール」「ライトニングボルト」「ホールドパーソン」「フライ」「チャームパーソン」などなど、AD&D経験者なら誰しもお世話になったラインナップです。巻末には訳者の清松みゆき氏がAD&Dのシステムと世界観に合わせた詳細な解説を書かれています。

 

が、やはりストーリー展開に比べて、システムとゲーム性がおざなりになってしまっている印象を拭えません。

 

ラストシーンは思わせぶりというか、ぶつ切りです。アルノとの最終決戦は最終巻「魔域の対決」にもつれ込むことになります。

「魔術師の宝冠」チャート解析 その1

どうも、ちゃなです。

「魔法の王国」三部作、第一作の「魔力の杖」は、主人公カー・デリングが父の後を継いで魔術を学び、邪悪な叔父や意地悪な上級生と対決する話でした。

今回は第二作目の「魔術師の宝冠」を紹介します。

 

本作は前巻から5年後の設定になっています。主人公は神秘科学アカデミーで学び、様々な魔術を身につけたいっぱしの魔法使いになっています。前作で父から受け継いだ「ブーコッドの錫杖」も大切に所持しています。

 

そこに、かつての上級生アルノが、セイブンの聖騎士団を支配したという話が舞い込んできます。悪魔パズズを召喚して世界を席巻しようとするアルノの野望を打ち砕くために、主人公は再び立ち上がります。

 

(ちなみに前作のレビューでは、叔父ベルドンから魔法を教わるのが本筋かと書きましたが、本作においてはハーフエルフのゼインから魔法を教わったことになっています。宿敵アルノと出会うのは叔父ベルドンが死んでからのことのようです。)

 

「魔術師の宝冠」では、前作と同様、主人公には生命点と三種類の技術点(判断力、機敏度、沈着度)が与えられます。相変わらず、生命点が減る機会はほぼありませんが、技術点での判定は重要です。「真の道」を通れば、判定の機会は数回しかありませんが、判定に失敗すると即死する展開も多いので、気が抜けません。

 

また主人公は今回ははじめから多くの魔法を覚えています。AD&Dのルールに則り、一度使った魔法は忘れてしまい、まとまった休息を取るまでは復活しません。作中で魔法を覚え直す機会はないので、使用するか温存するかの選択を常に迫られることになります。

とはいえやっぱり総パラグラフ220では、使用機会も限られてきます。ごく特定のルートを通らない限り、魔法が枯渇して困るような展開はありません。

さらに主人公は、解読中である父の大魔法「魔力付加」「異界接触」「他者変身」を所持しているのですが、これがまたくせ者です。

 

では、フローチャートを見てみましょう。

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黄色のパラグラフはデッドエンドです。結構多いですね。

青のパラグラフは魔法を使う場面です。

紫のパラグラフは必須フラグになっており、どちらかを経由しないとエンディングには到達できません。

緑のパラグラフ220が唯一のグッドエンドとなっています。

 

割と綺麗な単方向に見えますね。

ところが、本作では「どこ経由できたか」によって強制分岐する箇所がいくつかあり、プレイアビリティをちょっと下げています。

 

次回に続きます。

ゲームブックにおける主人公の設定

ゲームブックは、基本的に「二人称小説」です。

読者が主人公なので、地の文では、「君は……」という表現が始終出てきます。

作風によっては「君」ではなく「あなた」だったりします。英語ではほぼ100%、"you"ですね。

 

さて、この主人公にどんな人格を与えるか、それとも与えないかに、作品の特徴が大きく現れてきます。

主人公の扱いは、大きく3パターンに分けられます。

 

(1)無色透明の「君」

ファイティングファンタジーシリーズのほとんどは、主人公には何の人格も与えられていません。ストーリーの都合上、冒険者だったり盗賊だったり魔法使いの弟子だったりと、大まかな身分や能力は決まっているものの、容姿や性格、果ては年齢も性別も不明だったりします。

不明ということは、読者が自由に設定できることを意味します。あなたのお気に入りのキャラクターをゲームブックの世界で冒険させることができるのです。

近年復刊されたファイティングファンタジーシリーズでは、巻末に何人かのプレロールドキャラクター(能力値や出自の設定済みのキャラクター)が例示されています。

無色透明の「君」を用いるメリットは、読者の想像を損ねないことと、キャラ人気に左右されず幅広い読者を許容できることです。作者目線では、主人公の設定にはかなり気を遣うので、そこを読者に丸投げできるというのも実はお気楽だったりします。

 

しかし、気をつけなければならないのは、ゲームブックが有限の選択肢を提示している以上、完全に無色透明の「君」などいないということです。

例えば、敵に出会ったときの選択肢が「戦う」「逃げる」「呪文を唱える」「道具を使う」の4種類だったとします。この時点で、この主人公は敵を口車で懐柔したり、降参したふりをしたり、本当に降参して任務を放棄したりするような性格ではないということが規定されているのです。

「ソーサリー!」シリーズの主人公も無色透明な「君」で、実際iPadアプリ版では男女が選べます。しかし本編ではゴブリンをダシにした冗談をいうシーンや、魔法談義に花を咲かせるシーンがあり、コミュ能力に長けた人物像が浮かび上がってきます。

 

(2)想定される人格を有する「君」

主人公に名前こそ与えられていないものの、性別や容姿、性格がある程度決まっている作品もあります。

「悪夢のマンダラ郷」では、失恋したばかりの青年が主人公として想定されています。腰巻き一つの魔女ランダに誘惑されるシーンから察するに、そこそこイケメンなのではないでしょうか。

悪夢のマンダラ郷 悪夢シリーズ (幻想迷宮ゲームブック)

悪夢のマンダラ郷 悪夢シリーズ (幻想迷宮ゲームブック)

 

 

拙作「ネイキッドウォリアー」では、主人公は「名もなき女戦士」とされています。私自身、主人公の裏設定などは一切作っていません。しかし、全財産を投げ打って裸レースに出るわけですから、ギャンブル精神とさばけた性格の持ち主であることは確かでしょう。

ネイキッドウォリアー (ちゃなのゲームブック)

ネイキッドウォリアー (ちゃなのゲームブック)

 

 

こういった主人公の設定は、序盤で読者に明示される必要があります。さもないと読者は混乱し、「こんなの俺のXXじゃないー!」となります。自分が感情移入している主人公が行いそうな行動が選択肢に出てこないというのは、ゲームブックをプレイするうえで最もストレスフルな瞬間です。

 

(3)主人公が設定済み

はじめから主人公に名前と設定が与えられているゲームブックもあります。日本の作家の作品はこのパターンの方が多いかも知れません。

ドルアーガの塔」三部作の主人公は言うまでもなく王国の騎士ギルガメスです。「サイキックJK麻美 -灯油通り魔事件!」なんかは、帯に「主人公が「あなた」じゃない!」とまで書かれていて、主人公を二人から選ぶことができます。

 

この手の作品の場合、主人公のキャラがいかに魅力的かがとても重要です。同時に、主人公を定めた時点である程度想定読者を絞り込むことになります。

メリットとしては、作中に主人公の台詞を入れやすいことが挙げられます。作中人物同士の友情や論争を描くにのに、主人公が何も喋らないというのはやはり不自然です。しかし無色透明の「君」の場合、主人公に安易に喋らせると、読者の脳内世界が崩壊しかねません。特に日本語では、敬語や女性口調などで語尾変化が多様なので、”Yes"ひとつを喋らせるのも一苦労なのです。

 

ファイティングファンタジーの影響も大きいと思いますが、海外作品では無色透明の「君」が一般的です。対して、和製作品では主人公のキャラ設定にこだわった作品が人気を博する傾向があるように思います。日本ではドルアーガも含めてファミコン作品のゲームブック化が隆盛したという事情もあるでしょう。

 

ただ、この傾向はコンピュータRPGでも同じで、海外で人気の「The Elder Scroll」シリーズや「Bulder's Gate」シリーズでは主人公の種族も性別も自由に設定することできます。こうした作風のゲームは和製コンピュータRPGではあまり見当たりません。主人公を遊び手が自律的にキャラ付けするのを好む英米と、癖のある主人公になりきって遊ぶのが好きな日本、という傾向がおぼろげながら見て取れます。

 

皆さんは、無色透明の「君」を自分好みに脳内変換するのと、作者が精魂込めて作ったキャラを味わうのと、どちらがお好みですか?

 

「魔力の杖」チャート解析 その1

どうも、ちゃなです。

モーリス・サイモン氏の「魔法の王国」三部作、買っちゃいました。

以前2巻まで買ったものの完結編を読まないまま捨ててしまったので、ずっと心残りだったんですよねー。

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本作を一言で説明すると、AD&Dのシステムと世界観に準じた、大魔術師の息子カー・デリングの成長と冒険の物語です。

第1巻「魔力の杖」では、主人公はまだ少年で、本編で初めて魔術を習います。そして父が創設した神秘科学アカデミー内に隠された「ブーコッドの錫杖」を手に入れることになります。

第2巻「魔術師の宝冠」、第3巻「魔域の対決」では成長した主人公が大いなる悪と戦うことになるのですが、実はまだ攻略未了なので、またの機会に。

魔法の王国〈1〉魔力の杖 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

魔法の王国〈1〉魔力の杖 (富士見文庫―富士見ドラゴンブック)

 

 

「魔力の杖」の魅力は、なんと言っても主人公が一つ一つ魔法を習得していく過程にあります。

例えば、「眠り」の呪文をかけるためには、相手に砂をかけて「しーっ!」と言わねばなりません。かけられた側は自分に客観的になることで術を回避することができます。

「魔法解読」を習得するためには、一人ずつ異なるコマンドワードを探り当てなければならないのですが、その探し方のアプローチがまた、成功判定の成否によって変わってきます。

このように、多くのファンタジーゲームでは省略されがちな魔法取得の描写がとてもリアルで、まるで読者自身が魔術の勉強をしているような気持ちにさせてくれるのです。

ハリー・ポッターよりも本作の方が遙かに先ですからね!

 

本作はそういった文学的な描写に力を割いていて、パラグラフ数に比べてとても文章量が多いです。

危険な町並みや荘厳なアカデミー、一癖あるキャラクター達も生き生きと描かれています。

 

その一方で、本作はゲームとしてみると、かなりこなれていない部分が目立ちます。

 

まず、主人公は冒険に先立ち、生命点と三種類の技術点を決めるのですが、このうち生命点はまったく意味を成していません。

生命点が減る箇所はいくつかありますが、全部引き当てても主人公が死ぬことはないのです。

おそらくシステムをシリーズで共通にしたためでしょう。しかし、魔術師である主人公は白兵戦など行いませんし、戦闘ルールも存在しないのです。「ソーサリー!」のように、魔法を使ううちにどんどん体力を削られるということもありません。

 

三種類の技術点は、「判断力」「機敏度」「沈着度」に計5点を振り分ける形式になっています。これらはたびたび成功判定に用いられるので、初期設定は非常に重要です。

ルール説明でも強調されているように、判断力が主人公にとって最も重要です。迷わず判断力に3点振っておくのが正解です。

この技術点の扱いにもちょっと問題があります。技術点は展開によって大きく上下するのですが、判定に失敗すると技術点を減らされることが多いのです。ただでさえ低い技術点がさらに減らされると、次の判定は一層難しくなってしまいます。特に判断力が減ってしまうパラグラフを踏むと、冒険はかなり厳しくなります。

 

そして、本作の最大の欠点は、実は魔法です。

本作では主人公は全部で16種類もの魔法を習得するチャンスがあります。もっとも、すべてを習得することはできません。どんなルートをたどっても覚えられる魔法は最大3種類です。

しかも、せっかく覚えた魔法を使う機会が、ほぼまったくないのです。

 

種明かししてしまうと、16種類の魔法の中で使用する機会があるのは、「皆殺し」「炎の手」「羽毛落下」「壁登り」「明かり」「眠り」の6種類だけです。他の10種類は一度も選択肢に出てきません。

しかもこのうち、有効活用したと言えるのは「羽毛落下」「壁登り」「眠り」だけなのです。これらはクリアに必須ではありませんが、用いるとデッドエンドを回避しやすくなります。

「皆殺し」と「炎の手」は、選ぶと即死します。「明かり」は使っても使わなくても展開は変わりません。

 

たった244パラグラフの作品で、しかも魔法を習得する過程に重きを置いた構成では、魔法を使う機会を増やすにも限界があるでしょう。しかし、せっかく苦労して(時には死を覚悟して)習得した魔法がほとんど使えないというのは、主人公にしても読者にしても、あまりにも口惜しいものがあります。

 

……少々手厳しい解説になりましたが、気を取り直してチャートを見てみましょう。

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黄色いパラグラフはデッドエンド、青いパラグラフは魔法を習得するシーン、そして赤いパラグラフが、魔法を使う場面です。

……ね?魔法の習得に比べて活用するシーンがあまりにも少ないんですよ。

 

さて、本作ではパラグラフ構成にひとつ大きな特徴があります。途中でルートが大きく2つに分かれているのが見えるでしょうか?

実は、パラグラフ159からの選択で物語の展開が大きく2通りに分かれるのです。ひとつは、ハーフエルフのゼインに師事して魔術を学ぶ展開、もう一つは、主人公の叔父ベルドンの治めるアカデミーに入学するパターンです。

 

つまり本作は、物語の最大のポイントである「魔法の習得」というプロセスを2パターン用意しているのです。このようにメインプロットが複数に分かれるゲームブック作品は多くありません。

ちなみにネタバレになりますが、ベルドンは主人公の父の敵です。アカデミーに入学するということは、疑惑の渦中にある叔父の本拠地で勉強することになり、主人公にとっては様々な危険を背負い込むことになります。その展開を反映して、ベルドンルートの方が攻略の難易度は高くなっています。

他方では、アカデミーでの授業や意地悪な初級者長アルノとの確執など、ベルドンルートの方が面白いイベントが目白押しです。アルノは次巻以降でも主人公の宿敵として立ちはだかるのですが、ゼインルートだとアルノに会うこともなくエンディングに到達してしまいます。明らかに、ベルドンルートの方が正規ルートだと言っていいでしょう。ゼインルートはイージーモードとでも言うべきでしょうか?

(追記:……と思ったら、続編「魔術師の宝冠」では、主人公はゼインから魔法を学んだことになっていました。)

 

次回はチャートをより細かく見ていきます。