ちゃなのゲームブック

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さまよえる宇宙船 チャート解析 その2

前回の続きです。

「さまよえる宇宙船」がなぜ難しいかというと……

 

ここでいきなり、チャートの一番最後を見てみましょう。

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紫のパラグラフ216で、主人公は最後のワープを試みることになります。ここはパラグラフジャンプになっており、それまでの旅で時間座標と空間座標を見つけ出しておかないと、飛び先がわからない仕組みになっています。

正しい座標を計算式に当てはめれば、無事地球に帰れるのですが、見てわかる通り、間違った座標を入力してしまうとバッドエンドに直行です。

そしてこの、空間座標と時間座標の候補は、それぞれ3つずつあるのです。

したがって、考えられる組み合わせは9通り。そのうち正解は一つだけなのです。

(組み合わせの一つは同時入手が不可能なので飛び先が用意されていません。)

 

しかも、どの空間座標と時間座標が正しいかは、本文中のどこにも明らかにされていません。実際に飛んでみてバッドエンドに至って初めて、少なくともどちらかは間違いだったことがわかるのです。

 

これでは、正攻法で正解を見つけ出すためには、何度チャレンジを繰り返せばいいのか、見当もつきませんよね。

 

多くのゲームブックは、一回のチャレンジではクリアできないように難易度調整されています。しかし、バッドエンドになった場合、何がまずかったのかはおぼろげにわかるのが普通です。

例えば「バルサスの要塞」では、ヒドラで詰むことが多いですが、ヒドラに手も足も出なかった場合、「妖怪写し」が選択肢に出てくるので、この魔法を用意しておけば攻略できるかもしれない、ということが読者にはわかります。実際、妖怪写しを3つ持っていけば、ヒドラを打ち倒すチャンスが生まれます。あるいは、毛皮が選択肢に上がっているのを見て、次のプレイではバルサスの妻からなんとしても毛皮を盗もうと試みるかもしれません。このように試行錯誤を繰り返して、クリアに近づいていくのが、ゲームブック攻略の王道ともいえるやり方です。

 

しかし、この「さまよえる宇宙船」では、空間座標や時間座標を手に入れた際、それが本物か偽物かを区別する術はありません。(正解の文章には、なんとなくそれらしい雰囲気があるのですが、それも全文読み比べておぼろげに感じられる程度のものです)したがって、読者はとにかく最後の選択まで読み進めて、そしてバッドエンドに至ることで、可能性の一つをようやく潰すことができるに過ぎないのです。

 

正攻法で、つまり、選択肢を後戻りしたりチャートを解析したりせずに本書を攻略することがいかに難しいか、おわかりいただけたでしょうか?

 

私は個人的には、このような難しさは、あまり歓迎しません。初期のファイティングファンタジーシリーズには、こういった運否天賦の選択を迫る展開が、結構見受けられます。

 

さて、先にネタばらしをしてしまいました。それではチャートをはじめから順に見ていきましょう。

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さすがにこんな序盤で詰みが確定することはあまりありません。

しかし、最初の選択肢であるパラグラフ256で右舷にある不毛の星系を目指すと、いきなり燃料補給の必要に迫られます。ここでは、乗員を喪失したり、船にダメージを負ったりするリスクがあり、難易度が上がります。

 

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パラグラフ258で惑星にビーム着陸すると、いきなり座標を手に入れることができます。しかし、選択肢によって空間座標か時間座標のいずれかしか手に入らず、しかもどちらもハズレになっています。

燃料補給ルートからうまくすると、警備員を追加で手に入れられる可能性があります。とはいえ、所詮は警備員なので、あまり役には立ちませんが。

パラグラフ44からビーム着陸して異星人と接触すると、展開によっては彼らの弱点を知り、今後の展開が有利になります。さらにその先では、貴重な技術点を上げるアイテムが手に入ります。

 

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飢饉と疫病のある惑星では医務官が大活躍しますが、彼女を失うリスクもあります。残念ながら幾ら働いてもメリットはありません。

なお、パラグラフ83では、ブラックホールに侵入するための速度に関する情報が手に入りますが、この情報はダミーで、使い道がありません。

 

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パラグラフ126から小さな灰色の惑星に降り立つと、恐ろしい病原体を持ち帰ってしまいます。しかしこれを回避すると、真の空間座標を手に入れることができず、バッドエンドが確定します。なんとも意地の悪い構成です。

 

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複雑に分岐していますが、ここでの肝はパラグラフ232で入手できる空間座標です。当初目指していた赤い惑星には目もくれず、パラグラフ11で新たに見つけた小さな光点を目指さねばなりません。そこでイ・アベイルの時空間の研究に協力するか、無理矢理実験台にさせられる必要があるのです。迷路の出口に至れば正しい座標を教えてもらえますが、道を間違えるとバッドエンドです。

 

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パラグラフ109では灰色の惑星に降り立つルートがありますが、この惑星で最終的に手に入る座標は偽物です。ここは無視して飛び去るのが正解です。

 

いよいよ終盤です。

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パラグラフ320では車輪状の建造物ではなく、黒い惑星を目指します。しかしこの惑星そのものが目的ではありません。パラグラフ104から灰緑色の惑星にビーム着陸します。そしてテリアル人と遭遇するのですが、ここでは子供の方が偉いので、パラグラフ118で子供についていくことを選びます。するとラフという子供がサービスを提供してくれます。そこで体力点を全快してもらう誘惑に負けてはいけません。ラフこそが正しい時間座標を教えてくれる唯一の人物なのです。交換条件に船の技術を調べさせてあげても、リスクはありませんので、取引に応じましょう。

この最後のポイントを通るためには、途中の分岐ですべて正しい選択をしなければなりません。最大の難所といえます。

 ちなみにパラグラフ106では宇宙船を完全に修理することができますが、その備えが役に立つことはなく、バッドエンド確定です。本書では回復が意味を成さないんですね。

 

以上です。ファイティングファンタジーにしては少ないパラグラフ数にも拘わらず、非常に歯ごたえのある冒険でした。

本作では、道中、スタートレックを思わせるような奇抜なイベントが多数起こり、いかにもスペースオペラな展開ににやりとさせられます。しかし、地球に帰還するためには、そんな異星人との邂逅を楽しんでいる余裕はまったくないのが、何とも歯がゆいところです。